忠犬カノジョとご主人様
双葉さんの言葉に、海空さんはじっと俺の顔を見つめた。
そして、本当に体調が悪そうだということを理解したのか、海空さんは呆れたようにため息をついた。
「体調管理は自己責任だ。上司にそんなことまで心配させて、情けなく感じないのか」
……海空さんのいうことはもっともだった。
俺は、海空さんに深々と頭を下げて、双葉さんにも同様に謝罪した。
すると、双葉さんは珍しく怒った声でこう反論した。
「ちょっと、その言い方は、あんまりじゃないですか……」
双葉さんは周りに仕事仲間がいる限り、海空さんに対して敬語で話すことを決めているようだった。
「自己責任だ、情けないって…、一番そう感じているのは本人なのに……」
「君も上司として情けなくないのか。あんまり部下を甘やかしていると、ちょろいと思われて威厳が無くなる」
「…み、海空さんは、部下に対して……人に対して少し冷たすぎると思います」
「君は他人に一々干渉し過ぎなんだ」
「おせっかいだって、ことですか……?」
「そうだ」
「……もう、いいです。私、八神君のこと、家まで送ります! ……夕飯は、1人で適当に済ませておいてください」
……え、え?!
俺が混乱している間に、双葉さんはタクシーを拾い、俺を中に押し込んだ。
そして、住所を運転手に言うように促され、海空さんに挨拶をすることもせずに、車は発進した。
急展開に頭がついていかなくて、これから俺の家に双葉さんが来ると考えると、ただでさえ朦朧としていた頭がさらに鈍くなってきた。
俺が原因で、2人が喧嘩をして、双葉さんが俺の家に来ることになった……。
俺は、混乱しながら、なんとか気を確かに保った。