【完】私と先生~私の初恋~
「ありがとう。


そんな事を言ってもらえるなんて…教師になって良かった。


僕もそう思わせてもらいました。」


ドキッとした。


先生はいつもニコニコしていたけれど、こんな柔らかい笑顔を見たのは初めてだった。


なんだか本当の先生に突然会ったような気分になって、耳がカーっと熱くなった。


「それだけ泣いちゃったら、もう練習は出来ないですね。今日はお話をして過ごしましょうか。」

少しの間を置いてそう言った先生の顔は、またいつものニコニコ顔に戻っていた。


そして最後のレッスンから数日後、先生が京都に出発する日。


私は先生の見送りをする為に、数人の友人達と一緒に空港へと来ていた。


相変わらず先生はニコニコしてて、友人達も久々に会う関岡先生と話を弾ませている。


私もなんとなく会話に混ざりつつも、若干上の空。


先生の顔から目が放せず、とにかくボーっと先生だけを眺めていた。


「さて、そろそろ待合室に入らないと。今日はわざわざありがとう。」


先生が皆にお別れの挨拶をし始める。


私は勇気を振り絞って、先生に一枚の紙を渡した。


「…?」


「私の住所です…。あの…よかったら…お手紙下さい。」


先生はニコっと笑って渡した紙をポケットにしまい、私の頭をポンポンっと撫でると、そのまま待合室に消えていった。


あっという間に新年度が始まる。


私は相変わらずのうわの空で、何に対してもやる気が起きないでいた。


でももう中学3年。


高校受験も控え、いつまでもボーっと過ごすわけにはいかない。


それでもやっぱり先生が居なくなった喪失感は大きく、気がつくと先生の事ばかりを考えていた。


初めての恋をした私には、その感情の押し込め方なんてまったく解らなかった
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