【完】私と先生~私の初恋~
そのまま黙って二人でコーヒーを飲み終えた頃、先生は「早苗さん」と私を呼んだ。


なんですか?っという視線で先生を見る。


「……………しばらくの間、このままココに居座っちゃいなさい。」


驚いて聞き返す。


「え!?」


「居座っちゃいなさい。」


先生は相変わらずニコニコしていた。


「でもそんな事バレたら先生が…ダメです、絶対にダメです!」


「大丈夫大丈夫。」


「大丈夫じゃありません!ダメです!私、先生の人生まで壊したくありません!」


「壊れる?僕の人生が?どうして?」


先生はわざとらしくキョトンとした顔をした。


私は一呼吸ついて、話を続けた。


「もしバレたら、先生は学校を辞めさせられるかもしれません。もしかしたら逮捕とかされちゃうかも知れないし…」


「逮捕?大丈夫大丈夫。仮にされたとしても、容疑がかかるだけです。すぐに釈放されますよ、現に何もやましい事はして無いんだから。」


先生はアハハと笑うと、そのまま続けた。


「それに………学校をクビになっても、別に人生終わりませんよ。それだけが僕の全てじゃ無いです。」


「でも…」


「稼ぐ方法なんていくらだってありますしね。僕、こう見えてもピアノが得意なんですよ。」


先生は自慢気にそう言うと、私を見つめてニコっと笑う。


私は思わずプッと吹き出した。


「……でも私…やっかいになれる位のお金、持ってません。」


「お金?ハハハッ、気にしないで。部屋はこんなだけど僕、実はかなーーーりお金持ちですから。」


「でもそんな訳には…。」


「子供はそんな事、気にしなくていいの。」


先生はそう言って笑うと立ち上がり、寝室に入っていった。


本当にいいのだろうか…大丈夫なんだろうか…そんな事を考えていると、先生はすぐに戻ってきた。


テーブルの上に、何も付いていない鍵を置く。


「はいこれ、早苗さんの分。」


驚いて先生の顔を見る。


「しばらく居るんだから、無いと不便でしょう?」


「でもっ」


「いいからいいから。無くさない様に、大事に持ってて下さいね。」


先生はそう言って時計を見ると、大きく背伸びをした。


「あーもう朝だ。仕事に行く準備しなきゃ。」


時計は6時を回っていた。


先生との短い同居生活が始まった。
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