【完】私と先生~私の初恋~
普段、先生と私は同じ空間に居ても、特にお話をしたりテレビを見たり遊んだり…という事は無かった。


先生は先生、私は私で好きに過ごし、夜中の一時位になると「寝ましょうか。」といって布団に入る。


先生は本を読んでいる事が多く、私は邪魔にならないようにイヤホンで音楽を聴いていた。


そんな不思議な生活を、送っていた。


先生の家に来て2週間ほど経ったある日。


夏休みはもうすぐ終わり。



いつものように先生が買ってきた夕飯を二人で食べると、私はイヤホンを耳に付けた。


先生は本を…と思ったが、その日は珍しくピアノの前に座ると、なにやら黒い点が一杯書いてある楽譜を広げた。


そのまま小一時間くらい何か弾いている後姿を眺めていると、先生はふいにこちらに振り返った。


首をかしげながら、イヤホンを外す。


「いつも、何聴いてるんですか?」


「え?」


私はMDプレーヤーを見た。


私には当時好きな映画があって、その劇中の曲をよく聴いていた。


その映画のサウンドトラックにはピアノ曲が数曲入っていて、私は特に好んでそれを聴いていた。


「〇〇って映画の〇〇って曲です。」


「ふーん……ちょっと聞かせて貰ってもいいかな?」


私は立ち上がって先生に近寄ると、イヤホンを渡した。


先生が耳に付けたのを見て、当時よく聴いていた曲に巻き戻すと、再生ボタンを押した。


先生はじーっと、丸々一曲分の時間くらい聴き入っていた。


曲が終わった頃にイヤホンを外すと、鍵盤の上に手を乗せる。


不思議に思っていると先生はその曲のサビのフレーズを、まったく同じように弾きはじめた。
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