女の子だったら、どんな子かな〜とか気になったりするけど、男の子ならなぁ…。



別に興味ないっていうか。




あんまり関わりたくないなぁ。




でも、高1で一人暮らしっていうのは尊敬しなくもないかな。



着替えてメイクをするために部屋に戻りながら昨日のお母さんの言葉を思い出していた。





ーー「葵、明日ね、一人暮らしするためにここに越してくる子がいるらしいの。
詳しいことはまだわからないけど、一人で来るんだからお手伝いしなきゃね」




お母さんは昨日こう言っていた。




なんでそんなに張り切ってるの?と聞いたあたしをふふふん、とスルーしてたっけ。





14時20分




ピーッピーッピーッピーッ




部屋の窓の外から聞こえる車のバックする時の音。




「もう着いたの?」



あと10分あるからって余裕をぶっこいていたから、メイクがまだ途中だ。




「葵?着いたみたい。お母さん先行ってるから、ちゃんと来なさいよ」




ノックもせずに部屋に入ってきたお母さん。



言いたいことだけ言うとサッサと降りてしまった。




「もう…わかったって…」




慎重につけまを付けながら誰もいない部屋の入り口につぶやいた。




14時30分




言われた時間ピッタリに準備を終わらせ、携帯だけズボンのポケットに突っ込んで家を後にした。



「はぁ〜、あったか〜い」




1階だったよね、と独り言を言いながらアパートの階段を降りる。




「あ、いたいた」




階段を降りてすぐに引っ越し業者の人たちとお母さんを見つけた。




「おかーさーん。人足りてるんじゃないの?」



なんとなくぴょんぴょん跳ねながらお母さんに近付く。



「あ〜も〜遅いわよ、葵」



14時半って言ったじゃん。




「んじゃ帰ってい?」




「バカ言わないで。ほら、これを部屋に運んであげてちょうだい」




「は〜い」




引っ越し業者3人とお母さんがいれば十分じゃん。




「てかさ、男の子は?」




「家の中にいるから。挨拶もちゃんとしなさいよ。はい」



軽そうな箱をあたしに渡してきたお母さんが、早く行きなさいとばかりに手を払う。



もう!分かってるよ。




「お邪魔しまーす」




新しく来た人とは言え、人の家。




一応言って入る。




「あの〜」




玄関で靴を脱ぎ、廊下をゆっくり歩く。




返事がない。



運んであげてるんだから返事しなさいよ!



「あのー?」




今度はもう少し大きな声で。




でも、返事はない。




「これどこに置けばいいんですか!」




語尾を強めてみても返事はない。




なんなのよ〜とブツブツ言いながらある部屋の前を通ろうとしたら…。




「きゃあ!!!」


「うわっ!」




いきなりあたしの目の前に男の子が出てきた。





そして同時に声を上げた。




その衝撃であたしは尻もちをついた。



荷物は無事だ。




「いたた…」



「あ…ごめんな?」



なんか少しイントネーションが違う男の子は、あたしに手を差し出した。




「あ、ありがとう」




…じゃなくて!



「危ないじゃ…」




言いながら手を取って立ち上がり男の子の顔を見ると…。




「か…」



「か?」



「かっこいい…」




「ん?誰が?」




「や、あの、違います違います、なんでもないです」




「?へんなの。荷物ありがとうな」




彼の容姿に見惚れてしまって、あたしが持っていた荷物がいつの間にかあたしの手からなくなっていたことに気付くのが遅れた。




関西?の子なのかな?




それにしても…スラっと高い身長に、サラサラの黒髪、綺麗な肌、整った顔立ち。



まるで、漫画の世界から飛びたして来たような、超イケメン…。




思わずかっこいいなんて言っちゃった…。




スタスタと荷物を奥の部屋に運んで行った男の子が戻ってきた。




「どうしたん?」




「へ?」




いつの間にかあたしの目の前に立つ彼に、素っ頓狂な声を出してしまった。



「さっき頭でも打ったん?」




「え?いや、打ってない…けど…」




「けど?」




もぞもぞ言うあたしの顔を覗いてくる彼は天然なのだろうか…。




「や…なんでもないから…ほんとに、大丈夫」




「ほんまか?顔赤いし具合悪いんとちゃうの?無理して手伝ってくれんでええよ?」




スッと伸びてきた彼の右手は、あたしの左頬に優しく触れた。




「あ、あの!大丈夫!全然!終わるまで手伝うから!あたし、荷物持ってくる!」




彼から逃げるようにあたしは家を出た。




「遅かったわね。次これ持って行って…葵?あなた顔赤いわよ?さっきのもこれもそんなに赤くなるほど重たくないと思うんだけど」




お母さんがキョトンとしている。




あたしだってびっくりだ。




あんなにかっこいいなんて聞いてないよ…。




「なんでもないから!」




お母さんが持っていた箱を半ば引ったくって再び家に入った。




「あ、来た来た。名前教えて」



リビングの方へ荷物を持って行くと、彼はあたしから荷物を受け取りながら聞いてきた。



「葵…中野葵…そっちは?」





あたしが言うと、ニカッと笑った彼。




芸能人並みにかっこいいんだけど…!




「山城光!よろしくな!葵先輩」




いきなり名前!?!?



っていうかそうだ、年下なんだ…タメ口だし大人っぽいから忘れてたけど…。



「よ、よろしく、山城くん」




「なんで?」



「え?」




あたしがぎこちなく挨拶をすると、怪訝な顔で聞いてきた。




「名前で呼んでぇな」




「え、だって、初対面だし」




「ええやん」




「わ、わかった。ひ、光ね」




健気な光のお願いにこれまたぎこちなく返したあたしに、光はヒヒ、と無邪気に笑った。
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