彼はお笑い芸人さん
芸人さんの彼女、やめました


 謹慎中の透琉くんは、正直言って情緒不安定だ。

 他愛ないメールを送って来る、その頻度がヤバイし、電話で話していてもテンションが三割増し高い。

 心配になって会いに行くと、大抵ほろ酔い加減でだらっとしていて、死んだようにお笑いのDVDを観ている。
 尊敬してやまない、先輩たちのDVDだ。


「久遠さんサイコー!……何でこんな面白いんだよー」

 畜生と小さく呟いて、手にした缶ビールをぐびりと煽る。

「透琉くん……あんまり飲むと、明日に響くよ」

 あまりお酒に強くない透琉くんは、二日酔いになりやすい。

「だいじょーぶ。明日も休みだからあー」

 そう言いつつも、言うことを聞いて缶ビールをテーブルの上に置いてくれた透琉くんは、

「菜々ちゃんと朝までニャンニャンすりゅー」

 ごろにゃんと甘えてきた。
 ふわりとした猫毛とアルコールの香りが鼻先をくすぐる。

「駄目だよ、泊まれないよ。ぐんちゃん、帰って来るでしょ」

 私の足に頭を乗せ、膝枕体勢に入った透琉くんの頭を撫でながら諭すと、

「帰って来ないよーん。てかもう四日帰って来てない。浮気かしら?」

 ああ、そうか。透琉くんの情緒不安定は、ぐんちゃんの不在も影響しているらしい。
 そういえば部屋も散らかっている。ぐんちゃんがいれば、こうはならない。

「あの人は余所でお楽しみのようだし、こっちはこっちで楽しみましょうよ」

 なぜか女性言葉で、透琉くんは艶っぽく微笑んだ。

 設定が謎すぎます!

「ぐんちゃんが本命で、私が浮気相手?」



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