この冬が終わる頃に
 外はやはり雪が降っていた。
 ひらひらと迷い落ちてくる雪を、退屈そうにワイパーが払いのけていく。
 車内はすぐにエアコンで温まり、外の世界と隔たった。
 慣れない雪に、道はずいぶんと混んでいて、どの車もトロトロと仕方なさげに走る。
 いつもの街と時間の流れが違っているような気さえした。

「仕事なんて、いいように部下に割り振れ。無駄に抱えても効率が落ちるだけだ。」

 それがうまく出来れば、中間管理職なんて苦労しない。
 それとも、仕事が出来る仁和はいとも簡単にやってのけるのだろうか。仁和から言わせれば前に言われた通り、私には向いてないのかもしれない。

「だいたい、あの岡田って奴に大方のこと任せて、里菜実は、里菜実の仕事をすればいいだろ。あと、あのガキに手を貸し過ぎだ。」
「甲斐田くん?」
「普通上司の顔に触るか?教育し直した方が賢明だと思うが。」
「いいんです。甲斐田くんはあのままで、じきに大物になって、私なんかすぐ追い抜いて、別世界に行くようなタイプなんですから。」

 ふーんと仁和は言いながら、ハンドルを切った。
 普段ならタクシーで二十分ほどの家までの道のりが、雪のために一時間ほど仁和の車に揺られている。
 運転席と助手席の間に設置されたナビは、チカチカと矢印を点滅させながら私の家を差している。
 大通りを抜け、次の道を右に曲がったら私の家だ。

「コンビニでなんか買っていくか?」
「いいです、大丈夫。」

 ああ、またあの家に帰るのか、そう思うと少し寂しかった。
 この車の中という異空間が、いつまでも続けばいいのに。そう思っている自分に、少し驚いた。
 しかし、良かったらお茶でも飲んでいきませんか?なんて言うセリフを自分が言えるはずもなかった。
 アパートの下まで送ってもらい、仁和に頭を下げると、仁和の車は何の後腐れもなく走り出した。

 ああ、そういう引き際のいいところも、営業マンの仁和らしい。
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