解けない恋の魔法
「違うんですよ。今度パーティに出席する際に宮田さんにドレスをお借りすることになって、さっき隣で試着してたもので。でもこんな格好でここにいたら驚きましたよね」

 今更ながら自分がドレス姿なのが猛烈に恥ずかしくなってきて、赤面しながら操さんに説明すると、事情をわかってくれたようだった。

「で? 操はなんの用?」

「なんの用?じゃないわよ。これよ、これ!」

 操さんは思い出したようにムッとし、持っていた紙片をピラピラとさせながら、こちらへツカツカと歩み寄ってきた。
 私は今がチャンスだと思い、ふたりが話している間に隣の部屋に戻ってスーツに着替えようと、そっとその場を離れる。

「入金金額、間違ってるよ! ほら!」

「あれ? そうだったか?」

 部屋をそっと出て行くときにふたりのそんな会話が聞こえたから、なにか仕事がらみの話なのかもしれない。
 言葉の発し方に真剣さをうかがわせる操さんの様子から、なんとなくそう感じた。


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