俺様とネコ女
心を激しく掻き乱される。それを表に出さないように、出来る限り冷静を装う。


「もう。両手塞いでるからやめてよ」

「何でだよ」

「何でもだよ。それより映画選んでよ」

「映画よりお前がいい」


ゾクっとした。胸の奥のほうが疼く。つくづく思う。この人は私のツボにハマりまくる。

耳にしっとりと唇が触れる。湿った舌が縁取るように耳をなぞり、ゴトンと大きな音を立て、手からお皿が滑り落ちた。


コウの手が、無造作に後ろ髪を束ねて首筋を露にする。次に与えられる刺激を予測し、わかっていたのにビクンと反応してしまう。

うなじを彷徨った舌が止まり、そこを強く吸われ、声が、漏れる。


「いい鳴き声」


言い返してやりたいのに、言葉が浮かばない。悔しい。


「ここ」


名前を囁かれ、強く目を瞑り、口を結ぶ。


好きって言ってしまいそうだった。コウにも好きになって欲しい。愛して欲しい。

ギリギリのラインで、言葉を飲み込む。


”好き”の一言で、コウのそばにいられなくなるかもしれない。
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