俺様とネコ女
「泣かないで。俺がいる」

そう言って、頭を抱き寄せられた。泣きじゃくる私を、人目から隠すように。

あ、いや、と耳のすぐ近くで聞こえたかと思うと、直哉さんの腕がそっと離れた。


「俺と美咲ちゃんがいるから」

「うん。ありがとう」


直哉さんは、マンションの下まで送ってくれた。真っ暗な部屋を見上げた後、目線を私に向けた。


「あいつまだ帰ってないんだな」

「うん。毎日遅いし、今日は山本主任とご飯食べて帰るって朝連絡が来てた」

「こんなこと言うのは酷かもしれないけど、もしもコウと離れることになるとしたら、残された時間は、一緒に過ごしたほうがいい」


うん。私もそう思う。

もちろん別れたくない。

でももし、そうなってしまうとしたら、コウには笑った私を覚えていて欲しい。


弱い自分がイヤだ。私、こんな女じゃなかったのに。


コウに、依存しすぎてる。コウなしじゃ、生きていけなくなってる。


「こころちゃん、本当に辛かったら俺を頼って。俺がそばにいるから」

「ありがとう」


おやすみ、と小さく手を振り駅に向かう直哉さんの後ろ姿を見送った。
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