俺様とネコ女
「いっ、て」

ビールを一口飲んだコウが、顔を歪め、左の口端を親指で少し押さえる。


「どうしたの?」

「口の中切れてる」

「やっぱり?口の端が赤くなってるかなって思ったんだけど、コウ何も言わないし気のせいかと思ってた。誰かと喧嘩した?本性でちゃったの?」


本性って。とコウは皮肉を含んだ笑みを浮かべた。


「主任に殴られた」

「え?どうして?」

「秘書課の上野と実は付き合ってます。東京に連れて行きます。結婚します。って言ったら殴られた」

「山本主任ひどい!」

「隠してた俺が悪い。殴られて当然だ」

「でも、」

「それに、あの人見て決心ついた」

「何が?」

「知らなくていい」

「知りたいよ。教えてよ」

「黙れ」

そういうの、気になったら絶対聞かないと納得いかない。なんとかコウが口を割る方法を、大至急閃かねば。


「人前でいちゃつくよ?キスするよ?しかも濃厚なやつ。人多いよ?会社の人いるよ?」

「じゃれるのは、二人きりのときだけにしろ」


真顔で諭されノックアウト。
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