秘めた恋
「え、マジっすか?」

突然、私が話しかけてきたから彼が少し戸惑ったようだった。

「うん、私が彼女を送るから東郷くんは安心してここで飲んでて良いからね」
と先輩ヅラをしてみた。

だけど、警戒をしているのか彼女は彼の腕にしがみつき離れようとしない。

「ね、行こう?」

彼女にも先輩ヅラをして声をかけると彼女は、一瞬鼻で笑ったかと思うと
「気が変わりました~。まだここで飲みま~す!」と言い出した。

「おい!」と彼が言い、私も同じセリフを心の中で言った。

「え、あ、そう。」あまりにも彼女の自分勝手な態度にびっくりして
戸惑っていると追い打ちをかけるように「先輩が先に帰ってください~」と
言ってきた。

なに?この女、私を追い出そうってわけ。
なるほど、私が気に入らないのね。そっちがその気なら上等よ。

私は、ふぅと息を吐くと「うん、分かった。私、帰るわ。」と言い、
踵を返そうとした瞬間、「え?先輩帰るんですか?」と声をかけられた。

「え?」

振り向くと東郷くんが寂しそうな顔で私を見上げているのが目に入った。

「え、あ、うん。そうするけど?」

と言うと彼は、頭を掻き「じゃぁ、俺も帰ろっかな」と言い出した。

それには近くにいた女性陣もブーイングをし、「え~もう帰っちゃうの?」とか
「え~まだいよーよ」とか口々に彼を惜しむ声がした。

「すみません。でも、これで失礼します。今日はシンカンに誘って頂きありがとうございました。」と
彼はみんなにお礼を言って立ち上がった。

「じゃぁ、行きましょう。」と彼が私を見下ろして言った。

結構身長高いな、彼。私も結構高い方なんだけど、とぼんやり思いながら
彼と一緒に出ようとしたら水沢さんが「待って!やっぱ私も行く!」と彼にしがみついた。

最後までしぶといやつ。でも、正直ふたりっきりにならなくて良かったかもと思った。
< 123 / 175 >

この作品をシェア

pagetop