秘めた恋
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休憩時間が終わる間近、私はデザイン画に没頭したあまり
昼食が取れなかった。

朝買った珈琲を飲み干してしまったことに気づき、
私は事務所を一旦出てビルの一階にある珈琲ショップへと
足を運んだ。

そこである女性と鉢合わせした。

「森さん、お疲れ様。」

そう声をかけるも

「なに、あの男。本当に信じらんない!」

そうぶつぶつ言いながら私の存在に気づいてないのか
そのまま通り過ぎてしまった。

私をシカトする、あなたの神経が信じられないわよ。
はぁ、とため息をこぼすと彼女の後からある男性がビルに入ってきた。

私は、はっとなると彼に近づきお辞儀をした。

「副社長、お疲れ様です。ご出勤ですか。」

「あぁ、変わりないか。」

「はい、順調にプロジェクトは進行しています。」

「そうか。」

すると何か思い出したのか急に笑い出し、

「あの、森って子。」

「え?」

「面白いな。」

「森が何か失礼を・・・?」

「いや・・・(確かに無礼ではあったが)なんでもない。
少し興味があってな」

「はぁぁ・・・。彼女はただの派遣社員ですけど」

「ただの、という言い方は良くないだろ。彼女は俺にとっても
欠かせない労働者の一人だ。よく面倒を見るように」

親身に言ってるのか、皮肉で言ってるのか検討もつかず

「はい、すいません。」と節目がちに応えると

「古橋 大樹。」

「え!?」

突然の、彼の名前に思わず副社長を見上げる。

「俺の部屋に来いって伝えといて。」

そう言うと彼は事務所へと歩き始めた。

副社長が、社員を呼び出すなんて、彼が一目置かれている証拠。


ダメだ、心臓。鼓動よ、早まるな。
彼の名前を聞くたびに蘇る。

憧れていた彼と初めてキスを交わした日から
彼の名前が聞こえるたびに罪悪感と焦燥感を覚えた。

みんなが慕ってる彼を奪ってしまったように感じ、
付き合ってることが知れたらと思うと不安でたまらなかった。

だけど、彼の名前を聞くたび
半分は喜びを感じた。私たちが付き合ってるんだということを実感し、
恥ずかしいような、くすぐったいようなそんな気持ちにもなった。

二人だけの秘密、だけどあの時が私にとっては最高に幸せなひと時だった。
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