彼方の蒼
   ◇   ◇   ◇ 

 高校では僕は美術部に入った。
 もともと卓球の才能はなかったからそっちへの未練はなかった。
 入部して意外だったのは、先輩や同学年の部員のレベルと意識の高さだ。
 活動はコンクールの年間計画に合わせていて、出品した作品が上位入賞することもよくあるのだとか。
 五月の連休にはさっそく合宿がある。旅先でスケッチをするんだそうだ。
 高校生ってすごい。僕は中学との差にただただ驚いていた。

 
「泊りがけで部活とか、運動部みたいだよね」

 同じ部でクラスも一緒のカズオミくんは、なにかと行動を共にすることが多くなっていた。
 女子みたいな風貌の優男だ。
 委員長こと井上健一郎みたいなタイプかと本能的に警戒したけれど、ヤツとは違って空気が読めるし、すぐにぺろっと本音を漏らす僕をいさめるのも感心するほどうまかった。

「どうせ泊まるなら温泉がいいな。僕、中学で卓球部だったんだ」

 そんな僕の論点のずれたコメントにも、カズオミくんは、んー、と穏やかな笑みで応じてくれる。

「そういうのってさ、ぎりぎりまで黙っていて、いざ卓球をするときにばばーんって腕前を披露したほうがカッコよくない?」
「いいね、それ。その路線でいこう。それまでは真面目な美術部員の顔に徹するよ」

 僕はすっかりカズオミくんに気を許し、梅雨入りするころには互いの家に行き来する間柄になっていた。
 こいついいなって相手と出会えるのはそうそうあることじゃない。
 とんでもない拾い物をしたようなハッピーな気持ちでいられる。


「惣山くんって、カズオミくん大好きだよね」
 とうとうクラスの女子からそんな発言を頂戴してしまった。
 僕はもう本当に、犬のように彼に懐いているんだろう。

 うん、まあそうだ。
 好きだと思ったら一直線。
 思いの出し惜しみなんてしないし、転ぶときには前のめり。
 僕はそういうヤツだった。
 少しのあいだ、忘れていたけれどね。
 悲しいような淋しいような、後ろめたささえ混ざった気持ちでまた倉井先生の写真を眺める。
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