印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1973年9月14日 駅の待合室で起きた。

昨日、インドネシアンダッチのおねえちゃん達と
バプで飲んだくれてた・・はずだけど。

金、荷物、命・・あるな。OKOKよっしゃ。
 

きょうはドイツ入る。そんでスイス行ってバイトして、
ギリシャから中近東入る。予定は未定だが。

よっし、ハイカー多いな。こりゃ競争だ。
乗れそうな相方・・カナ公と組んで1台。

次、アメ公女と組んで1台。

パスポートチェックの小屋が見える。もう国境か。
車内でパス検。ハイどーぞって簡単なもんだ。
道路一本渡ればよその国、この大陸感覚。だからローマ帝国。

アッセン抜けて国境超えた。ドイチェだ。
ドイツ側は道路が広い。なんたって滑走路代り。

国道にはヒッチハイカーが鈴なり。
去年、アウトバーン歩ってポリに捕まったから、
ここは一発、ガソリンスタンド行って、ヒッチる。

2台でブレーメン。3台目はどでかいダンプ。
荷台にヒッピー二人。俺も隣に乗りこんで風ビュンビュン。

走る走る、揺れる揺れる。ドイチェとカナ公は途中で
降りて、俺だけハンブルグの入口まで乗った。

もう6時。おやじありがとって運転席見たら、
紙袋に包んだウイスキー二本。げえ そりゃ飛ばすわけだ。


いい夕陽だ。ハンブルグは三回目。好きな街。
女が愛嬌がいいわけじゃねえし、男も野蛮が多い。
でもザキと同じで、雑多でなんか勢いがある。

潮風のハンブルグ。きょうは野宿すっか、天気もいいし。
薄暗くなった道で公園探してたら車が停まった。

英語でcan I help youだって。えー?!
ヒッチしてねえのに停まるって・・・モーホか。
売人かもな。俺は騙されねえよ・・でもせっかくだし。

「お前、ハンブルグ市内まで行くのか?」 

おお、ちょうどいい。乗っけてよ。ひひ 

まともな36歳。ミュンヘンの英語の先生だって。
ドイツ訛りの英語。会話練習だったら俺じゃ役不足だろ。
1時間弱でユース前まで送ってもらった。どうもね。

ハンブルグの川辺のユース。相変わらず荒れてる。
ヒッピーと売人の溜まり場だ。
部屋ん中でハッシュ売ってる国籍不明の野郎。

共同洗面所で股ぐら洗ってるおねえちゃんが居る。
塩月やえこに見つかったら首絞められるぞ。
はしたないなんて言葉は、奴等にはない。

9月15日 ここは性に合わねえ。チェックアウトだ。
レーパーバーン近くのユースに宿替えした。
政府公認売春宿の隣のユース・・・健全でもねえか。

飲むと親父が言ってたことがある。
オリンピックまでは日本にも公認売春宿があったって。
ったくよー。赤線なくすのが文明国じゃねえぞ。
ドイツはこれでオリンピックやったじゃねえか。


きょうは土曜。ユース会員は只でボートに乗れる。
アメ公、フラ公、オーストラリアと俺で乗り込む。
アルスター湖遊覧船。優雅優雅。森と湖に~

午後、一人でトップテンクラブ見に行った。
ジャカランダはなくなってたが、トップテンはあった。



こんなとこでハコバンやってたんだよな奴等。
はたちそこそこでさ。つい10年前だもんな。
今更ながら尊敬しちゃいます。無名のB4。

夜、五か国ヒッピーで居酒屋。ドでかいビール飲んでゴキゲン。
日本人も二人合流し、行き先はエロスセンター。
奴はドイツ人、俺はスペイン系でごちそさん。

そんでディスコ行って草買って、ファーラウト。
歓楽街ハンブルグ。何でもある。うっしっし


9月16日 もう一泊する。4マルク30で飯付。 
夜、食堂でばったり。バンコーから来た4人と逢う。

おおっ、二人は見たことある。北士も元気だって。
なっつかしいなーって、サコウ君とエロスセンターへ。

薄暗いドームで昨日の女捜す。百人は居るな。
きのうのは居ねえか。じゃ小柄ラテン系で手打って、
サコウ君はドイチェ娘で交渉成立。

エレベーターで3階上がって、コンクリの小部屋。
裸電球の下30分、奮闘した。


9月17日 もうちょい居たいけど出発。
昼からヒッチ。親指立てて4台乗って、
7時過ぎオズナブリュック着。

ああ、もう北欧はヤメタ、このままスイスだ。
しかし、ころころ変わるな俺も・・・自由だしな。へへ

9月18日 晴天。
オズナブリュックから40分、生まれて初めてパトカーに乗った。
交通事故の死体を本国送還する死体輸送車の先導パトカーだ。

きょうの輸送車の中は、鹿や犬の死骸やモーテルの
看板が入ってるって。 ぐええ
しっかし、パトカーがヒッチのヒッピー乗せるかよ。
さすがドイツです。

懐かしのハイデルベルグユースに泊りました。



9月19日 10時。ロンドン出て初めての雨。
寒くはねえが嫌だ。

1台目、変なとこで降ろされアウトバーンを歩く。
ポリ公が来てほかでやれって、去年に続きやられた。

パトカーが居なくなるまで木陰で立ってたら、
ゆーっくりワーゲンが停まった。

でかワゴン。「どうぞお乗んなさいな」ほー英語だ。
おばさんと婆さんと犬。 主人と家政婦だって。

でっけえ指輪して香水つけて、サンドイッチ食え、
梨食え、日本大好き、フジヤマ見たいって。

Gスタンドでコーヒー飲んで、ここでねってキス。
ありがとね有閑マダム様。

スイスバーゼルまで10キロか。すぐそこだな。
じゃチューリッヒまで行ってみっか、ヒマだし。

アウトバーン歩ってたらまたポリ公だ。あ~あ
わかったよ俺が悪い・・ドア開いた。職質か?

ジャンクションレストランまで乗っけてくれた。
ここで車捕まえろって。はーい、わっかりました。

ドイツ人の女二人と一緒にヒッチる。これが技あり。
ほーら、すぐ停まった。チューリッヒまで直行だって。

見かけはドイツと変わらねえ。これが永世中立国か。
ふ~ん、軍人は居るのにな。

でもまあ、絵葉書通り、アルプスがあって雪がある。
でも物価は高え。ロンドンの3割り増しだ。

ジャーマンスイス、フレンチスイス、イタリアンスイス。
ガキでも三か国語は喋る、不思議な国。

ユースの食堂で山中とばったり会った。
バースの皿洗い紹介してやった奴。

針金細工でヨーロッパ廻ってるって、10月にミュンヘンの
ビール祭り行って稼ぐらしい。
奴も猛者の仲間入りか、陽に焼けて真っ黒だ。


9月20日 晴れた。
トラム4番で終点まで乗って、E41でヒッチる。

ベルンまで夫婦のワゴン1台で直行。そこのミグロスっていう
きれいなスーパーでパン買って公園で食う。
目指すはヌシャテル。あと20km、もうすぐだ。

モンモランのホテル行って猪狩氏に会う。
そこで、仕事紹介してもらう、予定。

おやじが停まった。ドア開けたら酒臭え、やめとくか。
でも、おやじは御機嫌だ。

どこまで行きたいの?日本人? 乗れよ。

乗ってくか・・・ゆっくり走ってくれよ。

ヌシャテルのホテルって言ったがまったく通じねえ。
ここはフレンチスイス。フランス語だけは興味ねえし。 

しょうがねえからホテルの住所の紙見せた。

ほら、ここだよ、おやじ。

っきしょう! これがまずかった。やっちゃった。

おやじ、紙見ながら運転、よそん家の石垣にドン。 
右前輪パンク。パラ酔ってるうえに脇見じゃ最悪。

パンク直すぞってタイヤ出したけど、おやじ赤い顔して
地べたにしゃがみ込んでやがる。

「だ~いじょぶだよ」 そうは見えねえ。

二人で2時間格闘。何とかタイヤつけた。
 
おやじもういいわ、俺、別の車ヒッチるから。

「だめだ、腹へっただろ、うち来いよ」 

いや、遠慮しとく。まだパラヨッテんじゃん。

「ばか、俺はだいじょぶだ。酒は抜けた、心配すんな」

抜けてねえよ、おやじよ。舌からまってんぞ。


・・・でも腹へったしな。野宿よりゃいいか。

じゃおやじ、まずこれ飲めよ、ゆっくりな。

俺の水筒1本飲んでションベンして一服して・・発車した。

ゆっくり行けよ。まだ死にたかねえ、俺にはインドが待ってる。
なんのこたあねえ、20分でおやじの家に着いた。

男の子ふたりと奥さんが居た。おやじが事情話してる。
奥さんニコっと庭のテーブルに飯の支度始めた。

ジャーン! こりゃすげえ、湖見ながら飯だ。 
うんおやじ、よかったよかった、ありがとさん。

1時間半くらい居て、おやじがまた送るって。

奥さん「私が運転するわよ」

そうしてくれ。命は惜しい。

子供達は留守番か。お礼に五円玉あげた。

奥さん運転、隣に旦那、うしろに俺でモンモランに向う。
道は俺が知ってるからって、おやじが道案内。

30分・・・なんか険悪な感じ。

「あんた!さっきから同じとこ廻ってるじゃないの!ったく」 

奥さん、そう怒るなよ。俺ここで降りますよ。

「だいじょぶ、連れてゆくから」奥さん意地んなってる。

悪いね俺のせいで。

パブの前で停まった。ん?

奥さん、店入って若いの連れて出てきた。

「ねえヨシ、ごめんなさいね。この若い人がモンモランの
駅まで連れてってくれるわ。 私が頼んでおいたから」

おやじ、笑ってる。奥さん怒ってる。

ほんとすいません。これ日本の切手です。
気持だけですがお礼です、どうぞ。

兄ちゃんのワーゲンでモンモランのホテル入口まで行ってくれた。
ダンケシェーン、メルシー、サンキュー。 



おおーひさしぶりー 元気かよー!

猪狩氏と彼の友人の工藤氏、広瀬氏、それに俺のロンドン仲間の
小林君がホテルに雑魚寝で寝泊りしてた。

うん、やっぱり持つべきは友達だ。

湖の見えるホテルの部屋。すげえゴキゲンじゃん。

明け方までダベって飲んで爆睡・・・きょうも色々あったzzz


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