印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1973年12月15日 ニューデリーいい天気。 
アメ公にもらった上着着てイスタンで買ったズボン履いて
・・ピエロだねこりゃ うっしっし

隣のホテルに移って4人組と合流する。
旅の防衛本能ってやつ。ひとりはやばい。

ヨーロッパのヒッチじゃ日本人と一緒なんて面倒くせえし
一人旅で適度な孤独感に浸れた。
でも中近東インドじゃ、そんなこたあ言ってらんねえ。

カブールじゃカナ公に助けられたが、いつもラッキーとは
かぎらねえ。 やっぱり頼りは日本人。


ここはケスリホテルより1ルピー高いが、安宿には違いない。
木と紐のベッド、10人部屋。 窓は開くが鍵は無い。
野宿は命取りだし、1ルピーをケチっていられねえ。

水谷君ほか3人、みんな同世代。
こいつらがきょうから相方。よろしく頼むぜ。

昼、5人で日本大使館へ。

しつこいリキシャのおやじ振り切って、道端で客待ちしてる
タクシーの方に歩く。

まず始まる、運ちゃん同士の客の取り合い。
そんで、勝ち残った運ちゃんと料金交渉ってわけだ。

値切って値切って値切り倒す。20分。5rpで成立。


運ちゃんはビーチサンダルにランニングシャツ。
メーターは無い。助手席にはバナナ、お茶、枕にターバン。

片づけるってトランク開けたらビニール袋が数個。
ピンクの液体が入ってタップンタップン転がってる。

運ちゃん、これなによ?

「ガソリンに決まってんだろ」 

ほっほう、ガソリンか。ビニール破れたらお陀仏だな。


走り出したら急に愛想がいい。
なんとか1日連れまわそうって魂胆だ。

「ガールガール、安い安い、2ドル2ドル」

覚えたな、営業日本語。

「行くか、連れてくぞ」

行かねえよ。バカ。 前向いて運転しろ。



路地に入ったら、牛が3頭寝てる。

運ちゃんおやじ、バックして違う路地に行く。
人はどかしても牛はどかさねえ。お牛様。宗教とはいえ不便だ。

さあ、もういいや。爆発する前に降りよう。おやじがんばれよ。


石造りの日本大使館。 入口に髭の悪人面の門番2人。
天井が高く、薄暗く広い階段。受付でパスポート出す。

返事もしねえ、シチサンのおやじ。
奥行って俺宛の郵便物持ってきた。

おっ、手紙6通もある。まだ俺、忘れられてねえってことだ。

ロンドンのミミも、スイスの孝雄君もNYのプリンスも、
みんな、ありがとございます。


次に、学生オフィス行って例の相談してみた。
パキスタンの国境でさ500ルピー取られたんだ。
頼むよ、助けてくれよ。

ほんとはアフガンに文句言うんだろうが、大使館無いしな。
だから ここインドでなんとかならねえか?

おやじ「またか。じゃ月曜に一緒にカスタムに行ってやるよ」

またかって、なによ?

「アフガン国境の役人はやばい。何度もこのての苦情がきてる」
 
ほお、そうかひでえな。 でも、じゃあ金は戻ってくるのか。

「手続きは必要だけど大丈夫。金は戻ってくるよ」
 
おおよかった。さすがゴータマの弟子、困った人は助ける
ってわけだ。ま、話半分、半信半疑だけど、頼むわ・・


ついでにネパール大使館行ってビザ申請する。 
やっぱりカトマンズも行きてえ。

4日後?そんなかかるのかよ。じゃもう少しデリーか。
ま、いいか。金も戻れば一安心だしな。
 
腹減った。

コンノート広場にあるレストラン「ミカド」
たまには豪勢に食うか。これからは特に体力勝負だしな。

野菜炒めライスにヨーグルト、バナナにチャイで8ルピー。
高えが、まあまあ美味い。

レストラン出たら岡本に会った。奴も風邪気味。 
酒でも飲みたいなって話になった。

アフガンやパキスタンじゃビールも飲まなかった。
飲む気も起きなかったし、だいち売ってなかったよな。

っひっひ、よし。酒屋探してビール買おうぜ。

ミカドのオヤジに聞いて、路地裏の店に行く。 
床屋でビールを売ってやがった。さすが、よろず屋インド。


 
ついでに風邪薬も買う。一箱5パイサ。
道端でモンパリ買って10枚1ルピー。
インドの煎餅。いいつまみになる。


夕方、ホテル帰って洗濯したら、一か月ぶりのビール。乾杯
うんめえ、沁みるぜ。半月ぶりにバスタブ入って、極楽。
みんなの旅の話で盛り上がった。

そんで寝る前、大使館で受け取った手紙をベッドで開ける。

ミミはバンドうまくいってねえらしい。
浜口は昭島の米軍ハウスに引っ越した。
雄二も野村も元気だって。 

スイスの孝雄君はスペインへ。仁枝氏は帰国して家業の食堂。
お袋からは無し。うーん漢字見ただけで泣きそうだ。

みんな、ありがとねzzz


12月16日。 風邪薬が効いた。咳がピタッと治った。
さすがヒンドウー5千年、ダテじゃない。
シャブでも入ってたか・・・ぐっひっひ

庭に出てみた。 おお! 雨だぞ、おい雨降ってんぞお。 
アテネ以来1か月ぶりの雨だ。

草や木の匂いがする。天の恵み、濡れたい気分。
よし小降りだし出掛けっか。



じゃレッドフォート行ってみよ。タクシーチャーターを
15ルピーで話つけた。ひとり3ルピーで1日王様気分。


おお、ドでかいな。山ひとつ分、そんでホントに城が赤い。
牛、犬、猫、猿、蛇、鳥、鳩、乞食、バクシーシ。
みんな餌のあるここに棲みついてる。

日曜だし外人観光客が多い。
ヨーロッパ人夫婦がガキに1ルピーあげた。ヤバイよ・・・

案の定、あっという間に10人以上のバクシーシ隊に囲まれた。


雨が止んだ。一斉に鳥と鳩が舞う。

どっからか兄ちゃんがズタ袋に入れてガンヂヤ売りに来た。
手の平一杯で30ルピー。まけさして10ルピー。
濃緑日本茶並み、今夜は草会だ。

 
帰りに楽器店に寄ってみた。なんたって元ドンバだ。

タブラが80から150rp、シタールは300から700。
思ったより安い。 でも持って旅はできねえしな。
ま、本物を見ただけで満足するべ。

おっ、急にスコールだ。ワイパーはきかねえ、底ぬけプール。
タクシーを道端に止めて15分、ピタッと止んだ。

水道の蛇口並。さすがインドスコール。はっきりしてやがる。

牛の糞も流されて、道路もきれいになる。 
自然の摂理に任せるインド流。 おっほっほ 


ホテルへ帰ったら寝袋が無い。クッソオー! 
ポルトベロで買ったお気に入りだぞ。

日本出て以来、物盗まれたことなかった俺。
インドはやばいのは聞いてたけど。くっそう。

ベッドの下に置いといたしな、油断したな。
しっかし気に食わねえのは、この上着と臭え汚ねえ寝袋だ。
俺の高級寝袋と交換したつもりか。

盗ったのはインド人じゃねえ、同じヒッピー仲間だ。
なっさけねえ野郎だ。 

「おい!おめえ等、俺のオレンジ色の寝袋知らねえか。
盗ってねえか!きょうなくなったぞ」

ガンとばして大声で怒鳴った。
アメ公が中指立てやがった。 ヴァッキャロー

ま、目星はついてる。今朝発った窓際の野郎だろ。
出てくるわけねえトンズラだ。あーあ、バッキャローめ。

でも上着だけは貰っとく。ネパール行ったら要るかもしれねえ。  
かーっ・・それにしても腹立つ



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