印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1973年12月17日 いい天気、でも目覚めは悪い。 
寝袋め、ちっきしょう。ポルトベロの高級品だぞ。
同じヒッピーが盗んだってえのが気に食わねえ。ったく。

こうなったら例の500ルピーだ。きょうこそ取り戻してやる。
学生オフィス行ってこないだのおやじに会う。頼りにしてまっせ。 

日記見ながら、状況ビシっと説明した。

人相? みんな同じ顔してたよ、悪人面だ。

服装? 軍服だったな。星の数まで見てねえ。

場所? 周りには低い山があったな。

結局事情聴取じゃなくて、このおやじが俺に探り入れてんだ。

まあ、信用したようだ。書類に7枚もサインした。
戻ってくるなら何枚でも書くぞ。

アフガンの国境役人の悪事をインドでチクるのも複雑だが、
同じ被害が多いって書類用意してるってのも、情けねえ話。

時間かかるって・・じゃ外で待つか。玄関先にしゃがんで一服。 


陽が暖ったかい。町中に牛の糞と香辛料の匂い。
コンクリの電柱には、噛み煙草を吐き出した真っ赤な唾。
早足で歩く男達、きょろきょろとカモを探す子供等。インドだ・・


「あら!? あなた!」 

誰? うん? おお! R子じゃねえか。どしたの。
なんと、ここで会うとはな。いやあ懐かしいな。
あれから1年か。バンコーはみんな元気か? 

NYの「けごん」でウエイトレスしてた娘だ。
あん時きゃちょっとイイ女だったが、今じゃピーコックシャツに
ビーチサンダル。すっかりヒッピー女に変身してた。

NYで稼いだ? 

「ええ、結構貯まったんでインドに来たのよ」

ウエイトレスはチップいいしな。 
俺等パントリーや皿洗いは、ダイムだけだった。

500ドル貯めたのか。ところであいつどうしてる?
俺もあれからさ・・って話てたら、さっきから隣に日本人の野郎。

なんだ? 一緒? ああ結婚したのかよ。

「・・・ ・・」 

そうか、女だてらにインドの旅じゃボディガードも要るしな。
しっかし、よりによってこいつか。お前も目が利かねえな。

「セイロン行きたいの。私さ、前から行ってみたいと思ってたの。
紅茶とか遺跡とか楽しそうじゃない」

紅茶飲みにセイロンまで行くか。それもいいな。
まあ、気をつけてな・・そいつにもな。


書類ができてきて控えをもらった。

でもここじゃ金貰えねえ。カルカッタのカスタムで受け取れって。
なんだか、また怪しくなってきたな。
ま、カルカッタは通る道だからいいけどさ。

タダで面倒やってくれたし、礼を言う。戻ったらラッキーだ。


12月18日 インドだってこれから寒くなる。
寒いインドなんて居たくねえし、南へ下るかな。

4人組は安いエアーチケット探しに行った。
俺は隣の飯屋でベジタブルパラオ1.5rpとチャイ30パイサ。
いつもの朝飯。バナナ8本1rp買って昼飯替わりに持ち歩く。

ヒマだ。 顔馴染みになったし学生オフィス行くかな。

客にお茶いれてやったりのボランティア。こりゃいい。
一銭も使わねえで1日つぶれる。

手紙の返事書いたり、ヒッピーと話して最新情報仕入れたり。
日本人に旅情報教えて正露丸や風呂敷もらったり、草売ったり。
地図広げて次の行く先探したり、夜まで学生オフィスで遊んでた。



12月19日 4人組は昨日エアチケット取れたって。
カルカッタ→羽田で290ドル。ワンウエイのオープン。
ドル立てしか売らねえって。 約10万か・・・高え。 

ネパール大使館にビザ貰いに。4日後だからもうできてるはず。
5人でタクシー交渉、2ルピー。

ナリが悪くなるとだんだん安くなる。っへっへ
俺等、もう観光客には見えねえって事か。

ビザは3ドル。これもドル払い。
1日2ドルでやってける国が入国だけで一人3ドル取りやがる。

大使館でビリーと会った。

いやあ、元気かよ。その節はお世話になりました。
カブール下痢下痢地獄の命の恩人だ。
ウオルターはまだネパールで草と瞑想だって。奴らしい。

じゃ、元気でな、また会おうぜ。

バナナ2本あげた。あん時のお礼。せめて気持ちだけだけど。


さ、ネパールのビザも取れたし例の床屋行って庭でビール。

なあ、南行ってみねえか。ボンベイなんかいいぞ。
おお、ボンベイか、行こうぜ。

さすがヒッピー同士、話は早い。ボンベイ決まり。

ボンベイにしたのは、ほかにも訳がある。
インド入って以来毎日、全員参ってるガキのバクシーシ。
自信に満ちた顔で観光客にたかってくる。

それはこういうこと。
「僕たちは持っていない、あなたは持っている。だからあなたが
僕たちにお布施するのは、あったり前田のクラッカーである。
その上あなたの為にもなる」

勝手な理屈だが、奴等はそうなんだ。

「そして、これは偉~いブッダの教えであ~る。
だから、お金ちょうだい」

目が合ったら最後。 ポン引きよりしつこい。
ホテルの入口で3日ねばったガキも居る。

こういうのはホントやりきれねえ。嫌気がさす。
ヴァッキャローって大声だしちゃう。仏陀も罪だ。

そこでアメ公情報の出番「ボンベイにバクシーシは居ない。
なぜなら、あそこはキリスト教。 元イギリス植民地だ」

さすがアメ公。算数は弱いが宗教や植民地関係は強い。

これで蠅みてえなバクシーシから逃れられる。
暖ったかいだろな。ボンベイボンベイ愉快なボンベイってわけ。


よう、ちょっと行ってみない。

どこよ? ・・・赤線か。

運ちゃんに場所聞いといたって。じゃあ、行ってみっか。  
でも6時だぜ、やってんのか。

まあ、話のタネだ。いっこうぜー。

20分くらい歩いて例の一角。

なんだこりゃ、汚な過ぎるな。こりゃ現地用だろ。 
インド人のスケベ野郎しか歩いてねえぞ。

しょんべんとゲロを混ぜた、すえた臭い。
真っ赤な豆電球がポチポチ光って、山を切り崩した一角に穴倉が、
蜂の巣みたいに並んだ赤線の城。

上の穴倉まで3mはある。穴倉に女が居る。近く行ってみようぜ。

30以上もある穴倉に、ひとりづつ女が居た。
座ってるやつ、立って手招きするやつ、寝てる奴。

真っ暗な穴倉にボロ布だけの真っ黒な女。
よく見ると唇だけが真っ赤っか、年齢不明、性別も不明だ。

あの穴倉でやるってのか・・・ムシロ一枚ドア替わり。

おい、帰ろうぜ。吐きそうだ。

ひっひ しっかしすげえな。ありゃなんだ、初めて見たぞ。
あれで20ルピーか。病気100%だな、いくらなんでもやばい。
話のネタにはなったが、夢見が悪そうだ。


12月20日 インド入って1週間。早いな。
風邪は完全治ったし、明日は南へ向かう。 支度しよう。

洗濯用の水はバケツ2杯で50パイサ行水用は1杯50パイサ。
石鹸使うと2杯じゃもたねえから、水だけでゴシゴシ洗って
足で踏む。そんで、庭の椅子やテーブルに干す。

乾くまで庭でフルチンになり全身日光消毒。そして行水。

インド流行水。水で体を濡らし、素早く石鹸を塗りたくる。
バケツから手で水汲みながら素早く体をこする。
全身カピカピになる前に頭から少しづつ水かけて、
最後にバケツごとかけておしまい。 
・・ま、説明してもしょうがねえか。

ここでスコールがきたらラッキー。
只で仕上げのシャワーができる。っひっひ



4人組はミカドへ昼飯に行った。俺はそんな金はない。
庭でバナナ食いながら水谷君のラジオをかける。

シタールのゆっくりした曲が庭中に響く・・・眠くなる。
ピヨ~ンウイウイ クョ~ン ヨンヨン

明日はビヨ~ン 南へ行くぞ~ン ポヨ~ン~



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