兄貴がミカエルになるとき
第一章
希沙良咲季、季咲良沙希。
上から読んでも下から読んでも、キサラ・サキ。
わかりやすいようで、わかりにくい妙な名前だ。
小学校に上がってこの名前をクラスでからかわれるようになったとき、
「なんでこんな逆さ言葉みたいな変な名前にしたの?」と
ママに文句を言ったことがある。
そしたら
「希沙良っていう苗字のパパと結婚するずっと前から、いつか娘が生まれたら
名前は咲季にしようって決めていたんだから仕方ないじゃない。
日本は季節ごとの花が咲いて、風に乗っていろんな香りが流れてくるでしょ。
季節の変わり目で世界が変わるっていうのかしら。
季節が咲く、咲く季節、って素敵じゃない?」
と、キッチンの窓からうっとり裏庭を見やったが、そこから見えていたのは伸び放題の野草だけだった。
そのときママは早めの夕餉の支度をしていて、エビの背ワタをとっているとこだった。
まな板の上ではエビたちが、まるで誰かに「ごめんね」と謝っているみたいに、
皆ぬめった背を丸めて一列に並んでいた。
窓から差し込む薄い西日がママの右手に握られた包丁に反射して、きらきら光って眩しかったのを覚えている。
上から読んでも下から読んでも、キサラ・サキ。
わかりやすいようで、わかりにくい妙な名前だ。
小学校に上がってこの名前をクラスでからかわれるようになったとき、
「なんでこんな逆さ言葉みたいな変な名前にしたの?」と
ママに文句を言ったことがある。
そしたら
「希沙良っていう苗字のパパと結婚するずっと前から、いつか娘が生まれたら
名前は咲季にしようって決めていたんだから仕方ないじゃない。
日本は季節ごとの花が咲いて、風に乗っていろんな香りが流れてくるでしょ。
季節の変わり目で世界が変わるっていうのかしら。
季節が咲く、咲く季節、って素敵じゃない?」
と、キッチンの窓からうっとり裏庭を見やったが、そこから見えていたのは伸び放題の野草だけだった。
そのときママは早めの夕餉の支度をしていて、エビの背ワタをとっているとこだった。
まな板の上ではエビたちが、まるで誰かに「ごめんね」と謝っているみたいに、
皆ぬめった背を丸めて一列に並んでいた。
窓から差し込む薄い西日がママの右手に握られた包丁に反射して、きらきら光って眩しかったのを覚えている。