兄貴がミカエルになるとき

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「あんた、お店はいいの?」

「リチャードのごちそうだって言うから、なぎさたちに任せて飛んできたわ。どうせ早い時間は暇だしね」

「だから、まだごちそうするとは言ってないんだけどなあ。なんでアキと同じこと言うんだよ」

慌ててリチャードが話に入る。

「私たちにはあなたが考えていることが聞こえちゃうのよ。さ、シャンパンでも頼みましょう」

がっちりとした体に黒いワンピースをまとった由美子さんは自分の前に置かれたドリンクメニューを開いて、本当にシャンパンの銘柄を選び始めた。
「まったく君たちは恐ろしいほど言うことが同じだ」

リチャードが苦笑している間に手を上げて、由美子さんがボーイを呼んだ。そしてボーイがこちらに到達するまでの間に今度は私とトオ兄に向かって、「咲季ちゃん、トオルちゃん、久しぶり……でもないわね。5月にちょこっと会ったわね。トオルったらまた男前になっちゃって。も~私、トオルちゃんみたいな男子と付き合いたいわあ。咲季ちゃんは相変わらずモデルっぽくないとこがいいわねえ」と言ったかと思うと、次はテーブルに到着したボーイに飲み物を頼むため、「さ、みんな何を飲む?」と、テーブルをぐるりと見渡し、選択を迫る。
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