兄貴がミカエルになるとき
「いえ、私は結構です。まだ、未成年ですし仕事のためにもそろそろ戻って早めに休みたいので、先にホテルに戻ることにしようかと……」

「ダメ」

すべてを言い切らないうちに、ママがきっぱりと跳ね返す。

「だめよ。せっかくのニューヨーク初夜なんだから、家族一緒じゃなくっちゃ駄目よ」

まず初夜って言葉の使い方が違うんじゃない?
いや、そんなことより、なんでゲイバーまで家族一緒に行かなくちゃならないわけ? 
わからない。私は高校生でお酒も飲めない。ママや由美子さんたちの会話に入り込めるわけでもないし、一緒にいる意味がわからない。

「トオ兄だけいればいいじゃない。疲れたし、ホテルに戻ってるよ」

丁寧に話しても何の効果もないので、普通に言うと、「あらあ、つれないじゃないの。咲季ちゃんもちょっとくらい顔出してってよ」と、今度は由美子さんが威圧する。

高校生の娘に、母親とその友人がゲイバーに立ち寄れってゴリ押しするってどういうことよ、と思ったけど、この人たちと戦っても勝てる勝算もなく、結局トオ兄と一緒に由美子さんの店に寄っていくことにした。
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