兄貴がミカエルになるとき
なんでだろう。

また胸がざわざわする。

トオ兄に俺が好きかと聞かれてなんで胸がざわめくんだろう。

そんな戸惑いにお構いなしに、ざわざわは胸の中で小さな波になり、その小さな波に打たれて揺らぎながらも、私はいつもの調子で「好きだよ。今更何言ってんの」と答えた。

「そうか、よかった」

左手で私の頭を撫でて、トオ兄は顔を前に戻した。

信号が青に変わって、再び車が動き出す。

6時前だというのに日はすっかり暮れて、窓の外はいつの間にか夜の景色に変わっていた。

小さい頃、暗くなったらおうちに帰りなさいといろんな大人から言われていた。

でも日が暮れる時間は日々変わる。

冬は早くに闇が下りてきて、夏の闇はゆっくり降りる。

夏休みにはまだ空が明るいことを言い訳に、公園や一時解放された校庭で6時を過ぎても友達と遊びまわっていた。

夕方になると空ばかり気にしていた。

いくらでも遊び足りない私たちは空を見上げ、「まだ明るいよね」と、夕暮れぎりぎりまで粘って乾いた地面を駆けていた。

夏の方が外で遊べる時間が長くて楽しい。

きっとそんな記憶があるせいで、早い日暮れが寂しく感じるのだろう。
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