兄貴がミカエルになるとき
車の中は静かで物思いにふけるのに適した環境だ。

次から次へと夕暮れの思い出が浮かび上がってくる。

きりがない。

私は夕暮れの思い出の中を遊び続ける。


「俺もお前が大好きだ」

その言葉で私は今に帰り、ハンドルを握っているトオ兄の横顔を見る。

随分と間を空けて戻ってきた「そうか、よかった」の言葉の続き。

「俺も、お前が大好きだ」

暗く静かな車の中で、その言葉だけがやけにくっきり浮かびあがった。

「じゃあ、相思相愛だね」

普段と同じように軽く返した。

いつものように、言葉に無用な湿り気が帯びないように注意して。

「そうか、良かった」

さっきと同じ返事が返ってきた。

だけど今度は、ランクAの笑顔を添えて。
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