兄貴がミカエルになるとき

初日に大きな打撃を受けたものの、高校生活は順調だった。

女子学部と男子学部に分かれているので男子がいない分、リカコ以外にあからさまに私をからかうクラスメートはいなくなったし、私立高校の中でも先生の質の高さが自慢の高宮学園だけあって、授業も楽しかった。

ただふと気がつくと、リカコが離れた席からこちらをじっと見ていることがある。

そして幸っちゃんがいないときを見計らって「あれだけ大きいと不気味。ハルクみたいな男じゃないと付き合えないわね」「ほんっと、いつ見ても大きくて目障りねえ」とか、わざと大声で話して周囲に同意を求め、まず自分で大ウケしてみせる。

教室や廊下ですれ違うときにはもれなく「うわ、でか! びっくりしたあ」と、意味なく騒ぐ。

さらには勝手にぶつかってきて「いったぁ~い。もう壁みたいに突っ立ってないで」と言いがかりをつけてくる。

何も変わっていない。本当に煩わしい。

「ガツンと言い返さないからだよ」、と幸っちゃんは怒るけど、言い返したらさらに「イヤーン、きさらさん、きょわーい」なんて言われるに決まっている。

だから極力無視することに勤めているが、熱血漢の久美ちゃんからも引き続き「面倒くさい状況から逃げるべからず」と、常に叱られている。

背は高いけど、面倒なことに向き合う志はとても低い。
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