聖魔の想い人
今夜は月が明るい。
こういった夜は遠くからでも相手の姿が見え、敵を発見しやすい。けれどそれは、向こうからもこちらの姿が見えやすくなるということだ。

できるだけ、藪の生い茂った木の根本に座り、体を休ませていたタリアは複数の足音を聞いた気がして、目を閉じたまま、抱えている長剣を握る手に力を込めた。

タリアは、今年三十を迎える女剣士である。一見して細身に見えるものの、その体は必要な筋肉をしっかりとつけた逞しい体で、長年野山を駆け回ったことを人々に感じさせた。

手には畑仕事ではない豆ができてごつごつしており、目には確固たる光をたたえ、人々をひきつける。

とても三十になる女性とは思えない身体能力を誇り今も現役で仕事をひきうけ、今も今回の依頼を終え、ここカダ王国から"家"に帰るところだった。

タリアはそっと目を開け、周囲を目だけで確認した。月の青白い光が林を照らす中、乱れた足音と、かすかに犬の鳴き声がする。恐らく、逃亡者を追う近衛兵だろう。どうやら、こちらに向かって来ているようだ。

……移動した方がいいかな。


そう思いタリアが立ち上がりかけた時ふと、近衛兵達の、何となく重そうな足音に混ざり、ひとつ違う調子を刻む足音があるのに気付いた。

この、軽く、はねるような足音は…


子供ー…
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