聖魔の想い人
ガサガサッ

と、前方の茂みが揺れ、小柄な人影が飛び出してきた。目の前にいるタリアを見て、はっ、と立ち止まる。タリアも、鞘から剣を抜きかけていた手を止める。

その人影が、子供だったからだ。

いくら月が明るく、夜目のきくタリアでもよく分からないが、年は恐らく十歳くらいの少年だろうか。

大きく肩を揺らし、はっはっ、と喉を鳴らしているのが分かる。タリアが剣を抜きかけているのを見て、ひっ、と身をすくめた。

しばし、奇妙なにらめっこが続いたが、さっきよりかなり近い場所でする足音と話し声に、少年がびくっ、と振り向いた。

今まで必死で走ってきたのだが、タリアの出現で何をすればいいのか分からなくなってしまったのだろう。逃げ出そうともしなかった。

タリアは一瞬、少年に目をやり、その背後から迫る松明と見比べてから少年に駆け寄った。

「おいで」

そう言って、月明かりの中、少年の腕をつかんで走り出す。驚く程細い腕に少し顔をしかめつつも、少しでも明かりの届かない所へ行くため、知っている場所へ向かった。

少年は特に抵抗もせず、ついてこいと命じられた人形のように、タリアの後をついて来た。近衛兵達は恐らく犬を連れて、においでこの少年を追っている。となれば、においを残さず逃げるしかない。

それに一番適しているのが、川だ。
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