聖魔の想い人
タリアが言ったではないか。ひとりで生きているつもりでも、必ずどこかで誰かに助けられている、と。

火を起こして待っていたイチのもとへ戻り、魚の内臓を取り出して塩をかけて焼いた。あちこちでいい匂いが漂い始める。

「そうか、ラファルはこんなことは初めてか」

タリアから、さっきの話を聞いたイチが言った。

「でもな、ここらの小さな村やこんな多勢での移動の時は、そんな風に食料を得るんだ。そうした方が効率がいいからな。そうすることが当然なんだよ」

「初めて知った。国の人たちは、みんな支え合って生きてるんだね」

「そうさ。ひとりで出来ることには限界がある。けど、人が集まれば、できることも増えてくるからね」

「食べ物も分け合うし、子供が生まれれば出産直後な母親の変わりに、近所の女たちや少女が赤ん坊の面倒を見る。それが、当たり前なんだよ」

タリアとイチの言葉に、ラファルは胸がキュッとなった。

協力し、支え合うこと。
それは、人が生活する中で最も大切で、重要で、けれど当たり前のことだ。

「さて、そろそろ焼けたかな」

イチが言って両手をすり合わせ、魚を竹串ごと抜き取ると、一番大きいのをラファルにくれた。

「これから歩くからな。きちんと食っとけ」

「でもイチたちだって…」

「なに。俺たちは歩きなれてるから平気さ」

ラファルはしばらく戸惑ったが、タリアにも言われてお礼を言って魚を受け取った。魚はこれまで食べたことがないほど熱くて、よく塩がきいていて美味しかった。

「あちっ」

「ほら、気を付けないと火傷するぞ」

周りでも、人々が魚を食べ始めている。その人たちの顔が楽しそうに輝いているのを見て、ラファルも何だか嬉しくなった。

やがて、人々の中にいた旅芸人たちが芸を始め、楽しい音楽と歌声、笑い声の中、昼の時間は過ぎて行った。
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