西山くんが不機嫌な理由
俺より一回り小さいその身体は、抱き締めるには足らなくて、籠った熱が伝うのには十分で。
振れた途端から言葉を発しなくなった凪に疑問を抱きつつ、背中に回す手の力を強める。
と。ようやく硬直した身体がほんの少し和らいだ。
「うわー、ににに西山くん」
「…………」
「西山くんて、私よりずっとずっと大きいね」
小さくふっと笑みを零し、そうっと恐る恐ると言った感じで背中に手を這わす凪。
触れているか触れていないか、本当にその程度の違い。
凪はきっと、思ってもいないだろう。
視界に映ることのない俺の心情を、凪は想像すら出来ないだろう。
「あ、あああの西山くん。少々酸素不足なのですが」
「…………」
「あれ、聞こえてらっしゃらない!?」
酸欠寸前の状態なのか、苦しそうな声を出す凪の背中に、更に腕に力を込める。
この手は離さない。離せない。
離してなんか、やらない。
吐息を吐く度に耳に掛かるらしく、くすぐったそうに身をよじる。
そこは不可抗力だから、仕方のないことだけれど。
「…………凪」
抱き締めたまま名前を呼べば、数秒遅れて返事が返ってくる。
本当は、何を話せば良いのかまったく決めていない。
こんなとき、気の利いた台詞がひとつでも口に出来るものなら良かったけれど、生憎そんな性分を持ち合わせている筈もなく。
だからと言って、遠回りをしないで直球ストレートも難しい話だ。