西山くんが不機嫌な理由
「西山くん?」
「…………基本、無口だけど」
「え?あ、うん」
「…………表情、出さないよ」
「うん。そんなところも含めて好き」
「…………愛想、ないよ」
「なくていいよ。むしろいらない!」
「…………」
「だって西山くんがいつもにこにこにこにこ笑ってたら、それこそ女子に大人気じゃんか!それは嫌だ」
半ば拗ねた口調で話す凪の声を、すぐ耳元で聞く。
腕を解放してその顔を覗き込めば、控え目にこちらを見て、はにかんで笑う。
その眩しいくらいの表情を、一番近くでずっと見ていたいと自然に思った。
だから。
凪と同じ高さに目線を合わせて、静かに口を開いた。
「…………凪、」
言葉を懸命に聞き入れながら、不意に泣きたそうに顔を歪め。
だけどそれを吹き飛ばすくらいの嬉々に満ちた表情を、最後の最後に惜しみなく曝け出した。
その表情を、瞳の色を、視界に映った全ての景色を。
1年経った今になっても、一点の曇りがなく鮮明に思い出すことが出来る。