西山くんが不機嫌な理由





「……あ」

「おはようさーん。呉羽ちゃん」



そう遠く離れていない前方に、これまた朝から爽やかな笑みを浮かべてひらひらとこちらに向かって手を振っている。



なんで、山城くんがここに居るんだ。




なんだなんだ。私昨日朝から会うなんて聞いてないぞ。



それとも、偶然乗る駅が一緒だったとか。




なんて考えている間に、先程まで一歩後ろにいた西山くんが私を追い越して先に歩き始める。



「あ、西山くん待って…」



慌ててその後ろ姿を追う私の隣に、山城くんが歩幅を合わせながらついてくる。



隠れて横を見ると、昨日と何ら変わらない余裕をかました顔。




視線で「何故ここに?」訴えかけたら、私にだけ聞こえるような小声で「ちゃんと言った通り化粧してきたね。偉い偉い」と終始笑顔を崩さずに言ってきた。




どうやら私の心の声は通じていなかったようだ。




そして化粧は見事に失敗しているらしいですよ山城くん。



なんせあの西山くんが吃驚されましたから。




今度はきちんと声に出して(小声だけど)聞いてみる。



「知りたい?」そう妖しげな笑みを浮かべる山城くんにこっくり頷く。



「なるべく早く呉羽ちゃんの顔が見たかったから、わざわざ遠いところから先回りして待ってたんだよねー」

「え?や、山城くん!?」



突然これみよがしに声を張り上げる山城くん。




そんな大きな声で話したら、前にいる西山くんにも聞こえるかもしれないというのに。




本当に、何を考えて行動しているんだろうこの人。




ずっと小声で話しているかと思ったら、急にボリューム上げたりするし。



昨日存在を知ったばかりの私になぜか協力的だし。




もとはと言えば私の何気ない一言から始まったわけだけれど、西山くんにこれといった変化は見られないし。




それに、本音を言えば私は別にこのままでいいんだ。



日常の中で本当に些細な優しさを見せてくれる、それだけで十分に満たされているのだから。



「(そもそも、西山くんの性格からして嫉妬なんてするのかねぇ…)」



半分諦めの混じった視線を山城くんにぶつけていたら、次の瞬間腕を引かれて2、3歩道を踏み外した。




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