西山くんが不機嫌な理由





「わ、わ、わわ」



弾かれたように顔を上げると、私のすぐ前にあった背中は見慣れた彼のもの。



「に、西山くん?」



今、私の隣に山城くんの姿はなくて。



前方に西山くんがずんずんと歩いていて。




手元に視線を落とすと、離さないようにしっかりと手首を掴まれていた。




突然のことに頭が冷静でいられない。



いや、いつもは冷静沈着ですよちゃんと。




試しに腕に力を入れて振りほどこうとしたら、それに気が付いた西山くんが腕を握る手に力を込める。



まるで離さないと言わんばかりだ。



「西山くん、急にどうした?」

「…………」

「山城くん置いてっちゃって……っぶふ」



少し小走りになりながらも必死で後を付いていったら、不意に歩みを止めた西山くんの背中に勢いよく額をぶつけた。



その際に鼻も強く衝撃を受けていたようで、骨が折れたんじゃないかと思うくらいにじんじんと痛みが走る。




鼻を擦ろうと思ったものの、利き手の右腕ががっしり掴まれているからやむなく左手を使う。



「こ、今度はどうしたんだ西山くん!」

「…………」

「(ははは無視だ)」



自嘲気味に笑いつつ、どうせいつもの無表情かなと西山くんの顔を下から覗き込んでみる。




瞬間目にした予想外の光景に、吃驚して息を呑んだ。




顔の表情はいつもと変わらず無を突き通しているけれど、その瞳が酷く泣きたそうに見える。



これが悲しいときにする顔なのかな。




どうしてそんなに辛そうな顔をしているんだろうと思う。



そんな顔されたら、こちらも釣られて訳もなく悲しくなってきてしまった。



「西山くん。なにか悲しいことでもあった?」

「…………黙って」

「はいすいません黙ります空気と化します」



ようやく声を聞けたと思ったら、今度はあっさりと突き放された。



もう慣れたから、変に落ち込んだりはしないけれど、気にはする。




恐る恐る西山くんを見上げつつ、やはり何かあったのかなと不安になってきた。




そんなことを考えていたら、ずっと真っ直ぐに前を見ていた瞳が今度は私を捉えた。




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