西山くんが不機嫌な理由





動揺してか奇声を上げる凪を一瞥し、片手で絆創膏を包みから剥がす。



こちらが一切返答しないことにようやく諦めがついたのか、大人しく黙り込んでじっと動かない。



傷の上に丁度被さるよう気を配りつつ、額に絆創膏を貼る。



額から手を離せば、物珍しげに髪が除けられ露わになった額をしきりに擦る凪。



瞬きもせずにその視線は真っ直ぐにこちらを射抜いていて、何か言いたげな表情を見せる。




口を開いてみては閉じ、再度開き掛けては動きを止めのひたすら繰り返し。



見ているこちらが焦れてくる。



「に、西山くん!あの、私、凪っていいます!」



決心して口を開いたと思えば、飛び出した言葉は以前にも聞かされた経験のあるもので。



自己紹介なんて、つい先日聞いたばかりだ。



無関心なんて噂が好き勝手に流れているからといって、それほど他人に興味を示さないことはない。



あくまで推測だけれど。



「…………呉羽凪でしょ、知ってる」



気怠にそう呟けば、何故か微かに凪の肩が跳ね上がる。



そして前髪を弄りつつ、俯き加減で小さく笑みをつくる。



無邪気なものではなくて、困惑の色が垣間窺える。



「先週の金曜日は、いろいろとどうもありがとう」

「…………」

「お母さん、西山くんのことすっごく気に入ったんだって。また遊びにおいでって言ってた!」



その言葉に、凪の母親の顔を思い浮かべる。



お茶目そうで、仕草が年齢不相応で、いとも容易く人の気持ちを見透かす掴み所のない人。



出来るならば2度と鉢合わせすら勘弁したいところだけれど、もう1度だけ会ってみたいと思った。



「それじゃあ、教室に戻らなくちゃ。西山くん、ありがとう、ばいばい!」



どこか避けるように、逃げるように教室から去ろうと足を踏み出す凪の腕を、咄嗟に掴む。




途端驚いて振り返った凪の顔は、吃驚するくらいに真っ赤に火照っていて。



腕を握る手の力が少し緩めた。



「…………凪、聞きたいことがある」




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