西山くんが不機嫌な理由
表情が完全に凍り付いた凪の様子から見るに、選んだ話は明らかに失敗していて。
突如居心地の悪さを感じて立ち上がる。
思い返してみれば、無神経且つとんでもなく自意識過剰な質問をした。
「あ、れ、…西山くん?」
腰を下ろして間もなく席から立ち上がる俺に、凪の不思議そうな視線が向けられる。
些細な気恥ずかしさに真正面から向き合うことが出来ずに、返事を返すことなく出入り口に足を進める・
「ま、待って!」
ドアノブに手を掛けたところで、大声を張り上げた凪に意表を突かれ振り返る。
勢い余って立ち上がった凪が、気まずそうに目を泳がせつつも大きく深呼吸を繰り返している。
そして、意を決したようにこちらに近付いてくる。
すぐ目の前まで寄ってきたところで止まり、口を開く。
「ごめんなさい!私この前嘘吐いた」
「…………」
「駄菓子屋の前で西山くん見たとき、本当はすごく吃驚したんの」
「…………」
「西山くんが真っ直ぐにこっちを見ていたから、なんか何も考えられなくなって、とにかく近くに行って話してみたいと思って」
「…………」
「気が付いたら、西山くんのことを知らない振りして話掛けてた」
途中で何度も言葉を途切らせながらも、必死になって事情を説明しようと苦渋な表情を浮かべている。
何もそこまで知りたがって追求したわけではないし、そもそもが話題探しに困った際の思い付きでしかなかったし。
だけど今更そんなことを言い出せる雰囲気でもなくて、ただただ黙って話に耳を傾ける。
と。
俯き加減だった凪が顔を上げる。
余計な心情を一切心に抱いていない、まっさらな表情で見上げてくる。
「西山くん。私」
「…………」
「あなたのことが、ずっとずーっと前から好きでした!」