西山くんが不機嫌な理由





戸惑いは素直に行動へと現れ、けれどその場で立ち往生するわけにもいかない。



冷静を自身に言い聞かせつつ足を一歩踏み出す。




爪先の小さな石ころを特に意識もせずに蹴り上げていれば、数秒遅れて音に反応した凪が弾けたように顔を上げた。




キョロキョロ辺りを見渡して、やがてこちらの姿を目にすればどこか安堵した表情を落とす。



張り詰めていた緊張が、糸が解けたかのように。



「西山くん、おはよう!」

「…………」

「あ、ちがうかな。やっぱり、こんにちは!」



玄関先で立ち止れば、必然的に凪と向かい合わせに立つ姿勢となる。



あまり重要性の含まれない挨拶をするのに頭を悩ませる姿を、何も言わずに視界に入れる。




否、何も言わないのではなくて、何を口にして良いのか分からなかった。



何を言えばよいのか適切な判断が出来ずに、黙りを決め込む結果に辿り着いた。



「や、あの決して学校帰りの西山くんをストーカーしてたわけじゃないよ!クラスに偶然西山くんと同じ中学だった子がいて、無理に住所聞き出しただけだから!」

「…………」

「……あの、迷惑だった?」



恐る恐るといった様子で尋ねてくる凪の言葉は全く耳に入っていなかったけれど、とりあえず首を横に振っておいた。



ただただ現状に思考が追い着かないばかりで、呑気に凪の声に耳を傾けていられるほどの余裕を持ち合わせていない。



「……」

「…………」

「……」

「…………」

「あ、それでね!」



重たいわけでもないけれど、決して軽くもない淀んだ空気がふたりの間に流れる。



こういう気まずい雰囲気になったときは普通男のほうが気を遣って何か声を掛けるものなのだろうけれど、残念ながら丁度良い言葉を選ぶのには相当の時間を要するようだ。




結局、沈黙を破ったのは思いついたように声を上げた凪。




手元に提げていた手提げから何か四角い箱の包みを取り出し、差し出してきた。




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