西山くんが不機嫌な理由
他の誰に向けるものでもなく、しいて言えば自分自身に対して重たい息を漏らす。
もう少しだけ早く、出会ってから想いを自覚するまでに時間が掛かり過ぎたのかもしれない。
実際の話凪は1年前の今頃から俺の存在を知っていて、それに反して俺は2度目の再会でようやく思い出したのだ。
ふたつの時間差は、もしかすれば短いのかもしれないけれど。
凪にとっては、きっとすごく長い。
出会ってから1年の間の凪の様子は知らない、時折学校の廊下ですれ違う際微かに視界に入れる程度だったのだと思う。
その間に、凪は他の男に想いを寄せていた可能性の方がはるかに大きい。
けれど、思い返すは凪に保健室で告げられた言葉。
凪は"ずっと"という言葉を選んだ、口にした。
彼女にとっての"ずっと"は、時間の単位に変換すればいくつに表せるのだろうか。
ほんの3か月間かもしれないし、それこそ1、2年間と捉えることも不可ではない。
言葉のあやと言うつもりは一切ないけれど、人それぞれの感じる時間の流れの速さを、他人が実感したり予想することは出来ない。
ぼんやりそんなことを考えつつも、足は一歩の間違いもなく真っ直ぐに自宅へと向かっていた。
意識がはっきり覚醒した頃には、小さいながらに視界に入る住み慣れた家。
何度目か分からない、数える気もさらさら起こらない溜め息を無意識に吐き出して歩く。
と。
「…………は、」
途端目にした光景を咄嗟に脳が受け付けられず、代わりと言ってはなんだけれど間の抜けた声が出た。
自宅の玄関の前には、やや壁に肩を寄り掛かりつつ俯き加減のその姿。
目の錯覚なのかもしれないと少し近寄ってみるも、一向にその姿がはっきり視界に映り込んでくるばかりで。
焦った。どんな顔をすれば良いのか分からずに、最終的には平常を装うことしか出来ない。
だって、まさか。
凪がすぐ目の前に立っているだなんて、これを嘘だと思わずに何を思う。