【完】MOON STONE ~美しき姫の秘密~

「…おい」


やっと反応してくれた翔聖だけど、


こんな弱い自分を見られたくなくて顔が上げられない。


フルフル首を横に振った


「…泣かれると困る」


翔聖は言い聞かせるようにそう呟くと


片手で私を抱き寄せた


「ごめ、ん…」


弱くてごめん。


私ってこんなめんどくさい女だって知らなかった


小さい頃から聞き分けだけはいいはずなのに…。


「いや俺が悪い


…ごめん」


「なんっで翔聖が謝るの?」


確かに無視は酷いけど、勝手に泣いたのは私なのに。


すると翔聖は私の顔を覆っていた手をどかすと


そのまま私を持ち上げて自分の目の前に置いた


パチりと近くで目が合って、ただえさえまだこの瞳に見つめられるのは慣れていないのに


泣き顔となればもっと慣れてない。


羞恥で顔に熱が集まった


「お前は色々な表情が見たいのか」


「…え?」


色々な表情…?


何の、こと…?


「午後の茶番の話だ」


あ、あぁ!あの変な作戦か。


確かに一番止められなかった理由はそれにあたるのだけど…。


意味が良くわからなくてキョトンと首を傾げる私に


翔聖はため息を1つこぼすと


「…俺の他の顔がみたいなら


他の男なんかに頼んじゃねーよ」


少しすねたようにブニッと私の両頬をつまんだ


「いひゃいー」


…翔聖、そんな事思ってたんだ


ふふ、なんだか嬉しい


ちゃんと愛されてるんだって伝わってきて頬が緩んだ


「何笑ってんだよ」


そんな無愛想なところも愛おしい


あぁ、もう!


そうだね、翔聖の色々な表情の元は私がいい


ずっと、ずっと。


「翔聖ーっ!」


そう思ったら無性にくっつきたくなっちゃって


初めて自分から翔聖の胸に飛び込んだ


「………っ」


一瞬驚いた様な顔をした翔聖だけど


私が飛びついても倒れない、


しっかり受け止めてくれる。


背中に回される腕も、頬にあたる鍛え上げられた体も


私を見る優しい目も


全部



「…好き」


思わず呟いた瞬間


ふわっと体が離れて


すぐ近くで目が合う


「「…………」」


──ドキッ


どれだけ時間が経ってもこの綺麗な瞳に見つめられるのは慣れないもの。


これからどうなるのか私にはわからない


知ってるのは目の前の人だけ


それでも怖くないのはきっと信頼の証。




…しばらく目を合わせた後、


翔聖は、ふっと可笑しそうに笑みを作った


「…あ」


その顔は初めて見た


だけど感動に浸る暇もなく



「まだ"好き"か」


これからが楽しみだな、と呟いた翔聖は


ゆっくり顔を近づけて


「………んっ」


唇を重ねた


いつもの微笑ましいものじゃなくて


感情的な…熱を帯びたキス


耐えられなくてぎゅっと服の袖を掴めば


翔聖が少しだけ唇を離して


ニヤリと妖艶に笑う姿が目に入った


「いつか"愛してる"って言わせてやる」


耳元で囁かれた言葉。


私は顔を赤くすることしかできなくて。






きっとその微笑みに私は…


一生勝つことが出来ないんだろう


そう悟った



END
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