恋のはじまりは曖昧で

さっき、会議室にいないなと思ったら電話中だったのか。

「……今日、伺います。そうですね、その時にカタログも持参します」

メモを取りながら話している。

私は自分の席に座り、パソコンの電源を入れていると電話が鳴り、条件反射で受話器に手をかけた。

「はい、花山株式会社です」

『お世話になっています。マチカワの沼田ですけど、営業の河野課長はいらっしゃいますか?』

「申し訳ございません。河野はただいま会議中で席を外しています。お急ぎなら……」

電話対応していた時、田中主任が私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「高瀬さんって、電話中か」

「どうかしましたか?私でよければやりますけど」

気を利かせてくれたのか、弥生さんが申し出た。

えっ、と思いながらも電話に集中しないといけなくて。
それでも、弥生さんと田中主任のやり取りも気になってしまうのも事実で……。

「会議に出ないといけないから悪いんだけど、ここに書いているメーカーのカタログを探してきてくれる?」

「はい、分かりました」

田中主任はメモ用紙を弥生さんに渡して会議室へ向かい、弥生さんもそのまま営業のフロアを出て行くのが視界に入った。

『……じゃあ、会議が終わったら会社の方へ電話するように伝えてもらえるかい?』

「承知しました。お電話番号の方をお聞きしてもよろしいですか?」

相手の連絡先を聞いて電話を切った。
< 137 / 270 >

この作品をシェア

pagetop