恋のはじまりは曖昧で

メモ用紙に河野課長宛てでメッセージを書く。

『8時50分にマチカワの沼田さんから電話があり、会議が終わり次第電話して下さいとのことです。高瀬』
電話番号も付け加え、そのメモ用紙を河野課長のメモスタンドに挟んだ。

伝票の整理をしていると弥生さんが営業のフロアに戻ってきた。
手には、田中主任に頼まれたカタログを持っている。
弥生さんは、そのカタログをうちの会社の封筒に入れて付箋を付け、田中主任の机に置いていた。
それを見て、なぜかモヤっとした気持ちになる。

「ん?どうしたの、紗彩ちゃん」

私がじっと田中主任の席を見ていたので、振り返った弥生さんと目が合ってしまった。

「え、」

「私のことを見ている感じだったけど、何か用があった?」

「あ、すみません。特に用事があるといった訳ではないんですけど……ボーっとしてました」

肩を竦めながら何とか誤魔化す。

「そうなのね。私も今日は早起きしたから欠伸ばっかり出ちゃうわ」

ふふ、と笑いながら席に座る。

「さて、今日は飲み会もあるし残業しないように定時で仕事を終わらせないとね」

「そうですね」

弥生さんの言葉に頷き、途中止めにしていた伝票整理を再開させた。
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