恋のはじまりは曖昧で

あと、一つ言えることは誰彼かまわず部屋に上がらせていない。
私だってそのあたりはちゃんと弁えている。

第一、田中主任は会社の上司だし、私のことなんてただの部下としか思ってないだろうという考えがあった。
以前、虎太郎がいる時に田中主任と一緒にこの部屋で過ごしたから、特に気に留めなかった。

だから、あんな熱っぽい目で見つめられた時は身動きが取れなくてホントにどうしようかと思った。

男には気をつけろってことを忠告してくれたんだろうけど、田中主任に抱きしめられて全然嫌じゃなかった。
これが他の男の人だったら、と思ったら嫌だけど。

じゃあ、逆にどうして田中主任は嫌じゃなかったんだろう?と自問する。
その答えにたどり着く前に「ハックシュン」と派手にくしゃみが出た。

そうだ、雨に濡れたんだった。
自分の状況を思い出し、立ち上がって洗面所に向かう。

手洗いうがいをしたあとに濡れた服と使ったタオルを洗濯機の中に入れた。
浴槽に湯をためる時間がもったいないから簡単にシャワーで済ませる。
スキンケアをしていたら、さっきの答えを考えることもすっかり忘れていた。
私は襲ってきた睡魔に逆らうことなく、早々とベッドにもぐりこんだ。
< 156 / 270 >

この作品をシェア

pagetop