恋のはじまりは曖昧で
ラグの上に座り、私を見上げるようにして海斗は口を開く。
「なぁ、紗彩は彼氏とかいないよな?」
「は?何、急に」
「いいから質問に答えろよ」
言い方が上から目線でムカつくんだけど。
「彼氏はいないけど、海斗も知っているでしょ」
今までそういうのに無縁だったから仕方ないじゃない。
大体、私に彼氏がいたら幼馴染みの海斗だったら話はすると思う。
それだけ、海斗との付き合いは長い。
「だよな。じゃあ……好きなヤツいるのか?」
「えっ」
好きな人?海斗から言われた言葉に思わず目を見開いた。
「いや、やっぱ何でもねぇよ。俺、仕事抜けてきているからそろそろ戻らないとさすがにマズい。あ、熱があるんだから、ちゃんと薬飲んで寝ろよ」
海斗は置いていた鞄を手に持ち、慌てるように立ち上がった。
「ちょっと……」
引き留めようとしたけど、そのまま玄関に向かい「じゃあな」と言ってさっさと出て行ってしまった。
急に静まり返った部屋。
立て続けに質問ばかりして何だったんだろう。
海斗の真意が分からず首を傾げる。
でも、“好きな人”と言われた瞬間、頭に思い浮かんだ人物がいた。
それは……田中主任だった。
どうして?なんて疑問は愚問だ。
だって、改めて考えてみると理由なんてたくさんありすぎていた。