恋のはじまりは曖昧で
「入社前に内定者向けの懇談で高瀬さん迷子になっただろ」
「はい、なりました……けど」
確かに私は迷子になった。
でも、どうしてそのことを田中主任が知っているんだろう。
「その時、誰かに声をかけられてない?」
聞かれて当時のことを思い出す。
急にトイレに行きたくなり会議室を出てトイレに向かったのはいいけど、緊張していたせいもありどこから来たのか分からなくなってウロウロしていた。
そこへ天の助けというか、私に声をかけてくれた優しい男の人がいた。
「え、もしかして……」
私は隣に座っている田中主任を見つめた。
「そう、俺。リクルートスーツを着た初々しい女の子がキョロキョロしながら歩いていたから気になって声をかけたんだよ。そしたら、半泣き状態の顔で俺を見上げ『助けてください』って。その時、子猫がプルプル震えているみたいで可愛かった。まさか同じ部署で働くことになるとは思ってもいなかったけど」
クスクスと思い出し笑いしながら話す。
子猫がプルプル?
そんな風に見えていたとか恥ずかしすぎる。
私はどうにか誤魔化そうと話を逸らした。
「コーヒーお代わり入りますか?」
「いや、まだあるから大丈夫」
逃げ出す作戦は失敗に終わった。
「やっぱり嬉しいもんだな。自分が好きになった子と想いが通じ合うって」
田中主任は噛みしめるように言う。