恋のはじまりは曖昧で

「女子社員の人たちですよ。さっきエレベータに乗ろうと待っていたら数人でいきなり囲まれて。それで、紙を差し出してくるので何かと思ったら自分の連絡先を書いていたんです」

「マジか。羨ましいヤツだな」

「何言ってるんすか!あんな女子社員の人たちの集団なんて恐怖ですよ。受け取る気もなかったから、『やめてください』って言って階段をダッシュして上がってきたんです」

さっきまでの状況を説明した浅村くんは嫌悪感を露わにし、息を整えながら状況を説明している。
思わず、弥生さんの方を見ると不安そうな表情をしていた。

「あー、もしかして社内報の影響じゃない?昨日届いたでしょ。私、見る暇がなかったから持ってきたんだけど」

三浦さんが机の上に置いていた社内報を持ち上げる。

「間違いないわね」

それに井口さんも同調する。

「女子社員に囲まれるって……何かデジャブなんだけど」

橋本さんはそう言って田中主任に視線を向ける。
それに気づいた田中主任は気まずそうに肩を竦めた。

「ちょっと橋本さん、何こっち見てるんすか。もう過去のことなんで忘れてくださいよ」

「忘れられる訳ないじゃん。あんたの時は営業のフロアまで女子社員がわんさか来てたんだから。しかも、当の本人は喜んでたみたいだし」

ニヤリと口角を上げて橋本さんは話す。
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