恋のはじまりは曖昧で

「君たちもここに来てたのか」

原田部長たち五人が『クローバー』にやってきた。
部長は私たちがいるのを知らなかったみたいで、声をかけられた。

店の混雑状況の関係で相席することになり、橋本さんが私と弥生さんのテーブルに座った。
隣りのテーブルには原田部長と花山主任、田中主任と浅村くんが座っている。
よくよく考えれば、すごい組み合わせだ。

「あ、そうだ!近藤くんから聞いたけど浩介、あんた彼女が出来たらしいわね」

ゴホッ……、隣のテーブル席から聞こえてきた会話に反応してむせてしまった。

「ちょっと紗彩、大丈夫?」

私の隣に座っていた橋本さんが心配そうに背中をさすってくれる。

「す、すみません。大丈夫です」

さっきの花山主任の言葉に動揺してしまう。
ぬるくなったお冷を飲み、何とか気持ちを落ち着かせる。

近藤さんてあの広報部の人だよね。
確か田中主任や花山主任と同期だったはず。

「アイツ……。お喋りなヤツだな」

田中主任はチッと舌打ちし、ビールを飲む。

「ねぇ、どうなのよ」

「それは本当か?田中!」

花山主任と原田部長の二人が興奮気味に聞いている。
原田部長から聞かれたら逃げられないよね。
私は田中主任がどう答えるのか気になっていた。

「本当ですよ」

「そうか、ついにか」

田中主任の返事に原田部長は嬉しそうな笑顔を見せていた。
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