恋のはじまりは曖昧で
マスターは数回通うとお客さんの名前をちゃんと覚えてくれるみたいで、私の名前も覚えてくれていた。
それがすごく嬉しかったりして。

とりあえず、運ばれてきたビールで乾杯した。
ローストビーフのサラダ、たっぷりのタルタルソースのかかったチキン南蛮、マルゲリータ、もちもちチーズ餅、軟骨のから揚げ、枝豆、オニオンフライを注文した。

「そういえば、ハイキングデートはどうなりました?」

「それがまだ行ってないんだよね。夏真っ盛りにハイキングっていうのも辛くない?」

「確かにそうですね。もうちょっと涼しくなった方がいいですよね」

弥生さんの言葉に同意する。

自分だったら、ちょっと行きたくないなと思っていると弥生さんのスマホが鳴った。
バッグから取り出し、それを見て頬を緩めている。
もしかして浅村くんからかな。

「あのね、浅村くんたちもここに来るみたい」

「だったら私お邪魔ですよね」

カップルと一緒にご飯なんて間違いなく居心地が悪くなりそう。

「何言ってんの。浅村くんたちって言ったでしょ。原田部長とか一緒みたいだから同席はしないと思うよ」

「そうなんですか?」

「うん。今日は早く仕事終わらせてご飯を食べに行くことにしたらしい」

原田部長も一緒なんだ。
もしかして、田中主任もいたりするのかな。
そんな期待を膨らませつつ、チキン南蛮を頬張った。
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