恋のはじまりは曖昧で
「お疲れさまです、高瀬です」
『お疲れさん。どうした?さっき会社を出たよな。何かあったのか?』
「あの、田中主任に来客があって……」
『来客?』
怪訝そうな声を出す。
「町村まどかさんて女性の方なんですけど」
『っ……』
田中主任が息をのむ声が聞こえた。
返事はなかったけど、反応からして彼女のことを知っているんだというのが分かった。
でも、田中主任の様子がおかしい。
さっきから無言で何も言葉を発しない。
何だろう、このモヤモヤは。
我慢できなくて口を開いた。
「あの、田中主任。どうかしましたか?」
『あ、いや……何でもない。それで、その人はまだいるのか?』
「はい、私の目の前に」
そう言って町村さんを見ると、“ほら、知り合いでしょ”と言わんばかりの笑顔になった。
そのことに若干の苛立ちを覚えていたら、電話越しに聞こえてきた田中主任の言葉に動揺してしまった。
『あのさ、悪いけど電話代わってもらえる?』
「えっ……、分かりました」
スマホを耳から外す。
何を話すのかすごく気になって仕方ない。
出来ることなら、このまま電話を切ってしまいたいぐらいだ。
でもそんなことは無理な話で、私は町村さんに声をかけた。
「田中主任が代わってとのことです」
「そう、ありがと」
町村さんは嬉しそうに私のスマホを受け取り、話し出した。