恋のはじまりは曖昧で

自分の席に座り、請求処理を再開した。
締日ごとに得意先の請求書を一斉にプリントアウトすることになっている。
だからみんなが入力し終わらないと請求書を出すことが出来ない。

一人が遅れると、他の人にも迷惑がかかってしまう。
定時間近になると、気持ち的にも段々焦ってきてミスも増えるから気を付けないといけない。

「木原さん、終わりました」

何とか入力し終わり、そのことを木原さんに報告した。
木原さんも片岡さん同様、既婚者で中学生の子供がいるパワフルなママさんだ。

「了解。今から請求書出すからね」

私が最後だったみたいで、木原さんは請求書をプリントアウトし始めた。
月末締め以外の請求日は比較的、請求書を送る業者が少ない。
取引先の大部分が末締めなので、請求書をプリントアウトするだけでも時間がかかる。

木原さんが担当別に請求書を仕分けてくれ、各自、入力間違いがないか最終確認して郵送の準備をする流れだ。

チェックを始めた頃には定時を回っていた。
商品名や金額や数量など間違いがないか、伝票と照らし合わせて確認していく。
細かい作業だけど、これを間違える訳にはいかない。
もし間違いがあった場合、入力し直してもう一度、その得意先の請求書だけプリントアウトすることになる。

「高瀬さん、大丈夫?私、もう終わったから手伝おうか?」

西野さんが私の様子を窺うように聞いてきた。
< 38 / 270 >

この作品をシェア

pagetop