恋のはじまりは曖昧で

三日後、私は出社してすぐに原田部長に呼ばれた。
部長の席へ向かうと腕を組み、険しい表情で一点を見つめている。
いつもと違う雰囲気に緊張が走り、ゴクリと生唾をのんだ。

「お呼びでしょうか?」

「高瀬さん、この請求書は君が送ったんだよね」

真っ直ぐに私を見て言う原田部長の手には一枚の請求書があった。
それに視線を落とすと、担当印のところに“高瀬”という私の印鑑が押してある。
間違いない、これは。

「はい、私が送りました」

「じゃあ、ここの会社は指定があることを知っているか?」

「えっ……」

指定?
変な汗が出て心臓が激しく脈打ち、いろんな考えがグルグルと頭の中を駆け巡る。

「この会社は指定請求書で出さなくちゃいけないし、必着もあるんだ」

原田部長の言葉に思考回路が停止した。
指定?必着?
バタバタしていて重要な部分の確認を怠っていたんだ。

請求書を間違えて送ってしまうし、必着もあったなんて最悪だ。
その請求書の得意先の名前を改めて見てハッとした。

これは片岡さんから頼まれていたやつだ。

『指定請求書で必着もあるから気を付けてね』と言われた言葉を思い出した。

もしかして私はとんでもないことをしてしまったんじゃないのかと、不安と恐怖に襲われる。
原田部長は静かに口を開いた。
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