恋のはじまりは曖昧で

でも、その言葉のお陰で少しだけど気が楽になった。

田中主任は然り気無く相手を気遣うことが出来る。
きっと女性の扱いにも慣れているんだろうな、と頭に片隅で思った。

営業のフロアに戻ると原田部長は外出していた。

田中主任に戻る前にメイクを直した方がいいと言われたけど、そもそも道具はバッグの中にある。
それがないとどうすることも出来ない。

俯きながら自分の席に行き、バッグの中からメイクポーチを取り出そうとしていたら西野さんがそばにやってきた。

「高瀬さん、ごめんね。やっぱりあの時、強引にでも手伝えばよかったよね」

「いえ、あれは私がいけなかったんです。私の方こそすみません。素直に西野さんにお願いすればよかったのに自分で出来るだなんて意地を張って……」

「ホラホラ、もう終わったことでしょ」

片岡さんもやって来て私の肩をポンと叩く。

「片岡さんもすみませんでした。頼まれたのにミスをしてしまって……」

「だからもう謝るのは終わり。これを教訓に次につなげていけばいいのよ。失敗は誰だってするんだから。部長だって二度と同じ失敗はしないようにって言ってたでしょ。結局はそこよ。ミスを何度も繰り返すか、一度でなくせるか。分かるわよね、高瀬さん」

「はい」

私は片岡さんの言葉にしっかりと頷いた。
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