恋のはじまりは曖昧で

「私だってミスをして部長に同じようなことを言われたことがあるよ。その時は自分の不甲斐なさに落ち込んだけど、仕事でのミスは仕事で挽回していくしかないからね」

西野さんも励ますように言ってくれる。

そうだ、落ち込んでいても仕方ないんだ。
この失敗を取り返すべく、頑張らないといけない。
みんな優しい人ばかりで気持ちが救われる。
田中主任の言った通りだ。
私は職場環境に恵まれていると思う。

「取りあえずメイクを直して来たら?あー、目も真っ赤だしファンデもハゲてるよ」

「ちょっとお手洗いに行ってきます」

メイクポーチを手に席を立った。

自分がどんな顔をしているか鏡を見ていないので分からない。
きっと化粧もはげて汚い事になってるんだろう、なんて思いながら歩いていたら話し声が聞こえた。

「それにしても田中主任のフォローは流石でしたね」

「まぁね。御三家の王子様降臨って感じだったわ」

話しているのは西野さんと三浦さん。

三浦梨香さんは、二十代後半のモデル顔負けの美貌の持ち主。
クールな見た目に反して中身は激アツな人。

営業事務は私を入れて六人の女性がいる。

今、会話している二人と既婚者の片岡さんに木原さん。
あと席を外しているけど井口恭子さん。

井口さんは三浦さんと年齢も近くて仲がいい。
おっとりとしたお嬢様タイプの人。
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