恋のはじまりは曖昧で

前は袋を抱えるように持っていたので大丈夫だったけど、背中は完全に無防備でブラジャーが透けていたってことになる。
え、ちょっと待って!
今日のブラジャーの色はピンクだ。
一応、旅行だからと可愛めの下着をつけていたからまだよかったけど……ってそういう場合じゃない!
うぅ、穴があったら入りたい。

「ありがとうございます……」

消え入りそうな声でお礼を言う。
他の人にも見られたんだろうか?
田中主任が気づいたんだから、きっと他の人も目にしているはず。
見苦しい物を見せてしまったと自己嫌悪に陥る。

「大丈夫。たぶん、俺しか気づいていないから」

田中主任は再び耳打ちしてくる。
その言葉を聞いてホッとするやら、情けないやら複雑な感情になりながらも、私は小さく頭を下げた。

どうして、こういう時って時間の流れがゆっくりに感じるんだろう。
早く一階に着いて!!!と祈るような思いで身体を縮め、足元に視線を落としていた。

エレベーターが一階に着き、“開く”のボタンを押した。

「高瀬さん、ありがとう。お先に」

佐藤さんたちが口々にお礼を言って降りていく。
自分でも顔が引きつってるよなと思うけど、何とか笑顔を見せる。

最後に田中主任が降りたのを確認し、急いで大浴場に向かった。
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