恋のはじまりは曖昧で
“女湯”と書かれているのれんをくぐり、扉を開けると脱衣所には西野さんたちの姿はなかった。
服を脱ごうとして手にかけたのは、自分の物ではない、田中主任のカーディガン。
さっきのことを思い出すだけで恥ずかしくて仕方ない。
でも、今さらだし開き直るしかないよね。
再び脱ごうとしたら、そのカーディガンから田中主任が付けている香水の匂いがした。
何か田中主任に包まれているような感じがしてドキドキする。
ちょっと脱ぐのが勿体ないというか名残惜しい気が……って、私は何、変なこと考えてんの。
ブルブルと頭を振った。
カーディガンを綺麗にたたんでかごの中に入れ、着ていた服をすべて脱ぐとタオルを手に浴場の扉を開けた。
***
湯船から上がり、浴衣に着替える。
濡れた髪の毛をドライヤーで乾かしてクリップで纏めた。
「紗彩がそうしてるといつもと雰囲気が違うね」
「ホントですか?」
「うん。いつもは髪の毛をひとまとめにしているけど、今はアップにしてるから後ろ姿が色っぽい。紗彩ってノーメイクでもあんまり変わらないね。これだったらまだ学生でもイケるんじゃない?」
「三浦さん、紗彩ちゃんは三月まで大学生だったから、学生に見えるのは当然ですよ」
「あ、そっか。若いっていいわね。羨ましいっ!」
「それに肌の潤いも違うんじゃない?ちゃんと湯を弾いてたし。でも……胸はもっとあった方がいいかもね」
軽く毒を吐くのは井口さん。
毒舌お姉さま降臨だ。